暴走する近代主義が「ニヒリズム」に向かう理由

「知識」「感受性」「想像力」が「ひらく」対抗力

われわれはニーチェが予告した未来に向かっているのでしょうか?(写真:claudiodivizia/iStock)
現代文明や日本思想を論じる言論誌『ひらく』が昨年創刊された。「日本文化の根源」「現代という病」といった本格的なテーマで特集を組んでいるにもかかわらず、創刊号は増刷するに至るなど、大きな話題となっている。
いま現代文明を批判的に論じ、日本思想を問いなおすことの意味とは何だろうか。
同誌の監修も務め、創刊号に続き昨年12月に刊行された「日本人の自然観・死生観」などを特集した『ひらく』第2号にも寄稿している、思想家の佐伯啓思氏による巻頭言を抜粋し掲載する。

行き先も着地点も想像できない文明の自動拡張運動

われわれが生きているこの世界は、今日、方向感覚をまったく失っています。次々と打ち出される技術革新や、モノ・カネ・人・情報の国境をこえた急激な移動は、かつてなく人間の可能性を拡張したかのように装われています。

確かに、SNSの展開、AI技術の登場、日進月歩の生命科学など、表面を見れば、現代文明は人類進歩の最先端を猛進しているかのようにも見え、われわれの日常は奇妙なほどに活気に満ちてさえいます。

しかしまた、その表皮をめくってみれば、表面上の活気とは裏腹に、さまざまな領域で深刻な秩序崩壊や価値の混迷に直面する現実が浮きぼりになるでしょう。しかもそれは、政治、経済、社会、文化、芸術といった個別の分野の問題ではなく、それらを横断し、その全体を覆う、まさしく現代文明全般の危機的状況というべきものではないでしょうか。

この静かに、目に見えないところで進行する文明の自壊というべき事態こそ、われわれが、あたう限りの感受性と洞察力を研ぎ澄ませて対峙すべき課題だと思われます。

しかもこの文明の自壊は、限りなく自由や富を欲望し、合理的科学や技術を推し進め、世界中をグローバル市場で結びつけ、情報通信技術の進展を無条件に文明の進歩であると盲信した「近代主義」と決して無関係ではありません。

この暴走する「近代主義」に対する有効な歯止めもなく、また批判的な手立ても見えない今日の世界のなかで、われわれは、行き先も着地点も想像できない文明の自動拡張運動にただただ身を委ねるのみ、といった塩梅です。

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