安倍インド訪問延期、新幹線輸出に何が起きた? 草の根から始めても開業までには紆余曲折

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インドにせよ、台湾にせよ、高速鉄道を受注するまでには長い年月がかかっている。インドが日本の新幹線方式を採用する前段階としては、2011年にインド鉄道局の幹部十数人が来日、メーカーの工場や新幹線の車両センターを視察し、新幹線への理解を深めている。

仕掛けたのは国際協力機構(JICA)だ。アジア各国の鉄道関係者を日本に招いて鉄道の現場を視察してもらう試みをJICAは毎年行っている。

人材育成で「日本びいき」増やす

その試みは新幹線にとどまらない。アジアの新興国にとっては新幹線よりも、ずっと喫緊の課題である都市交通。その導入に関わる人材の育成にもJICAが一役買っている。

東京メトロの現場を視察するフィリピン運輸省の職員ら(記者撮影)

例えば、フィリピンでは営業路線の拡大に伴い現在4000人の鉄道従事者が2022年には2万人規模まで増えるとみられている。そのため、フィリピン政府は鉄道人材の育成・監督機関として「フィリピン鉄道訓練センター」の設立を決定。JICAと東京メトロは訓練センターの運営・監督を担うフィリピン運輸省の職員を2019年7月と9月に招聘し、東京メトロの総合研修訓練センターなどで視察研修を実施した。

9月10日にその様子が報道公開され、来日フィリピン運輸省の職員13人は実際の運転事務室の乗務員点呼やアルコール検査の様子を視察したほか、方南町駅では営業列車の運転席に添乗し、運転士の動作などを学んだ。研修に同行参加した運輸省のアンリ・ロントック次官は、「日本の鉄道事業者の安全・安心と定時性、高効率を重視している点を参考にしていきたい」と語る。

このようにして、アジアの各地で鉄道従事者が日本びいきになってくれれば、日本の鉄道ビジネスの海外展開にも大きく寄与するだろう。トップ外交も重要だが、こうした草の根展開も欠かせない。それでも冒頭のインド高速鉄道のように周到な準備をしてもスケジュール通りに進まないことが少なくない。実現までに幾多の困難を乗り越える必要があるのが、海外鉄道ビジネスなのだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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