法曹界きっての「IT革命児」がはまった深い谷 司法制度改革が生み出した「士業」のひずみ
高まる司法ニーズに対して、弁護士の供給が追いついていないという認識の下、進められた改革の1つが司法書士の業容拡大だった。司法書士法の改正で、簡易裁判所における訴訟代理権が司法書士に認められ、訴額90万円以下(のちに140万円以下)の過払い金返還請求事件の手続きや裁判外の和解を代理できるようになった。
同時に行われたのが弁護士数の大増員だ。弁護士が企業や公的機関など社会の隅々まで進出していけば弁護士の業務は量的に拡大し、質的にも多様化・高度化していくという見立ての下、法科大学院(ロースクール)が設置され、毎年の司法試験合格者を大幅に増やすこととなった。
「食えない弁護士」が急増
その結果、2001年に1.8万人だった弁護士数は2007年に2.3万人、2015年には3.6万人にまで膨れ上がった。ところが、肝心要の需要が増えなかった。新規事件数の指標とされる第一審(地裁)の民事通常訴訟件数は2001年の15.5万件から2009年には23.5万件まで増加したものの、その後は徐々に減少し2015年は14.3万件となっている。
2009年まで伸び続けたのも、その6割を占めたのは過払い金返還請求訴訟だ。ベリーベスト法律事務所など新興の法律事務所はこうした需要を吸収して急成長を果たしたが、その後「過払い金バブル」は終焉。本来的な司法制度改革の見立ては大きくはずれた。
弁護士の数が足りないという理由で司法書士の業容を拡大し弁護士数も増やしたが、事件数は増えず、その代わり「食えない弁護士」が急増した。
仕事を取りたい弁護士の中には「司法書士に渡した訴訟代理権を引き剥がせばいい」という意見がある一方、過払い金返還請求事件等を大量受任するために事務員を増やすなど規模を拡大してきた司法書士事務所には「今さら引き返せない。弁護士会は都合のいいことばかり言うな」という憤りがある。現に東京司法書士会綱紀調査委員会は今年4月、本件について、新宿事務所を処分しない決定を下している。
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