法曹界きっての「IT革命児」がはまった深い谷 司法制度改革が生み出した「士業」のひずみ

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しかしS氏の懲戒請求に続き東京弁護士会も2017年11月、綱紀委員会に、酒井氏らを調査するよう命じた。綱紀委員会は2018年11月、懲戒の可否と内容を決める「懲戒委員会で審議をすることが相当」と議決。今年1月から懲戒審査が始まった。

今年9月の懲戒委員会で酒井氏らは、綱紀委員会が下した結論は不当だと改めて訴え、11月15日には冒頭の弁明書を提出。残すは懲戒委員会の結論のみとなった。

紹介料か、それとも業務委託料か

焦点は、ベリーベスト法律事務所が新宿事務所から過払い金返還請求相談を引き継ぐ際に支払っていた1件当たり19万8000円が「紹介料」なのか、それとも「業務委託料」なのか、という点だ。綱紀委員会は「紹介料が含まれている」と主張する。

東洋経済の取材に応じた酒井氏に「紹介料ではない」とする主張の根拠を聞いた。

――19万円8000円は紹介料ではない?

ベリーベスト法律事務所代表の酒井将弁護士(記者撮影)

「依頼者の過去の取引履歴を調査し、利息制限法の金利に引き直して過払い金の額を計算するためにデータ化していく作業は、とくに140万円を超えるような長期間の取引であればあるほど膨大になる。この作業について司法書士のタイムチャージが約10万円、訴状等の作成費用を約10万円と見積もって出したのが19万8000円。これは司法書士が弁護士に事件を引き継がずに同様の業務をした場合に受け取る報酬額と、ほとんど変わらない」

「実際、新宿事務所は弁護士に事件を引き継いでいなかった時代、同様の業務の対価を合計19万8000円とする合意を依頼者と結んでいた」

――新宿事務所に余計なお金を支払っているわけではないと。

「東京弁護士会綱紀委員会の主張には『依頼者の負担』という重要な視点が欠けている。

仮に、新宿事務所から弁護士に事件が引き継がれなければ、相談者は新宿事務所に契約解除まで(140万円を超えることがわかるまで)にかかった費用を支払ったうえで、新たに自分で弁護士を探して相談料、訴訟費用を負担しなければならない。あるいは弁護士をつけずに本人訴訟をするしかない。引き継ぎがなければ経済的・時間的・心理的負担が増えるのは依頼者だ」

この19万8000円はあくまで業務に対する対価で、紹介料ではない。また引き継ぎをしなければ依頼者の負担が重くなる、という主張だ。今回問題となった「引き継ぎ行為」の背景にあるのは、2000年以降に進められた司法制度改革だ。

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