新幹線優先?密室で「青函貨物廃止」案を議論中 東京―札幌間「4時間半」実現への最大の難所

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そこで、北海道─本州間を航行する既存のフェリーやRORO船(フェリー型貨物船)、コンテナ船を活用する案が飛び出した。

もともと、船舶輸送は北海道─本州間の貨物輸送の9割以上を担っており、鉄道貨物のシェアは7~8%にすぎない。季節による繁閑がなければ、理論上は船舶の空き容量で鉄道貨物をすべて運び切れる可能性がある。

しかし、船舶輸送は集荷先から出発港までと到着港から配送先までの輸送にトラックを使う。すべての貨物を船舶に置き換えると、青函共用区間どころか、道内の鉄道貨物輸送が不要になりかねない。

鉄道は北海道内の貨物輸送に重要な役割を果たしている(編集部撮影)

船舶の速度は鉄道よりも遅い。そのため船舶による輸送は鉄道貨物と比べて所要時間が長くなると思われがちだが、集荷から配送までの全行程を考えると、エリアによっては鉄道貨物より船舶のほうが、所要時間が短くなるケースがあるようだ。また、2016年に北海道を襲った台風10号で根室本線が被災した際、JR貨物は船舶による代行輸送でしのいだ経験がある。船舶案は荒唐無稽な案ではない。

JR貨物の真貝康一社長は「鉄道貨物をトラックに切り替えた場合、運転手の確保ができるのか」という発言にとどめ、表立った主張はしていない。しかし、同社の売上高の3割を占める北海道の貨物輸送が失われれば、経営に大打撃となるのは確実だ。

船舶案はホクレンが反発

同社に代わって声を上げたのは、同社の大口荷主であるホクレン農業協同組合連合会だった。「青果市場と貨物駅が隣接しているエリアが多く、船舶に切り替わるとこのメリットが失われる」(板東寛之専務)と、船舶輸送案に猛反発した。産地から市場への輸送手段の変更でコストが増加したり鮮度が落ちたりすれば、競争力の低下につながりかねないからだ。

北海道から各地に運ぶ貨物だけでない。各地から道内に運ばれる貨物も輸送手段の変更によって、輸送日数からコストまでさまざまな影響を受ける。しかもJR貨物が北海道から撤退すれば道経済への影響も計り知れない。そのため、多くの関係者が船舶案に反対する。青函問題は今秋から局長級会議に引き上げ、来秋までに方向性を示すことになっていたが、夏以降に議論が失速。青函共用区間の貨物列車走行を残す前提で、新スキームを検討することになりそうだ。

では、在来線貨物列車の走行と新幹線の高速走行を両立させる方法はあるのか。実は、貨物新幹線や船舶への置き換えよりも「はるかに現実的だ」として、関係者間で有力視されている案がある。

その案は『週刊東洋経済』11月2日号(10月28日発売)「東京―札幌『4時間半』実現への難所 焦点は青函トンネルだ」で詳細に報じている。なお、同記事は『週刊東洋経済プラス』でも全文公開している。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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