異常気象に企業も本気で対峙せねばならない訳 当たり前を再度根本から問い直す必要がある

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私は、信玄堤は、戦国時代の当時においても、令和時代の現在においても、「異次元のイノベーション」であったと考えています。それは、この「レジリアント」な手法が、決壊、すなわち想定外を前提とした治水システムであり、自然を取り込んでリスクを分散、最小化するという、「自然と共生」するシステムであったと考えられるからです。

「甲斐の国」は山に360度すべての方位を囲まれ水害も多発、強力な敵国にも囲まれるという極めて過酷な地政学的環境に位置していました。武田信玄はそうした制約要因と多くの失敗経験を踏まえて、「イノベーションそのもののイノベーション」「根本をも覆すような異次元のイノベーション」を生み出すことに迫られていたわけなのです。

日本各地の歴史に学ぶ

近代以前の農耕社会での治水は、氾濫が頻繁に発生する地帯は住居区域とせず、一定以上の洪水は氾濫に任せわざと越流させ、その被害を最小化することを基本としていました。まさに信玄堤のような発想です。

明治時代には、人口が増加、人々は居住する土地を求めて氾濫が頻繁に発生する地帯にも多く居住するようになりました。そこで、政府は、大河川に沿った連続堤防を構え洪水を「完全に封じ込める」河川事業を開始したわけです。現代に移ると、人口増加が加速、都市化の進展と河川下流域開発が並行し、さらに中・上流域も含む河川流域すべてで都市化が進んでいる状況となりました。

現在では、水源から河口まで流域全体をカバーする治水対策が進められていますが、都市化の進展に対策が追いついていない、洪水対策が後追いとなっているのは否めない状況です。

日本の近代・現代の治水の歴史では、幾度となく想定外の被害が発生しています。台風19号では、堤防の決壊件数は71河川・128カ所にも上りました(10月18日現在、国交省)。これまでの「想定」自体が通用しなくなってきていることは言うまでもありません。

私は、多くの自然災害を経験してきたわが日本においては、信玄堤は、山梨県での1例にすぎないはずであると思っています。日本各地にも歴史・経験・環境を踏まえた優れた仕組みが多くあるはずです。それらを掘り起こし、現代に活かすことが求められていると思います。

「異次元のイノベーション」を起こさなければならない今だからこそ、「想定外を前提とする」「自然と共生」「レジリエンス」といった信玄堤を事例とするような、日本各地で培われた知見に学びつつ、最先端テクノロジーとの相乗効果を発揮させるような大胆なイノベーションを官民あげて起こす必要があるのではないでしょうか。

そして、翻って日本企業には、アップルが推進していているように、事業自体を変革するほどまでに、地球環境問題に事業の中核として取り組んでいくこと、つまりは、「会社の芯から地球環境問題に対峙する」ことをリードしていくことが求められているのです。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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