住民疑問の声「田園調布浸水」は自然災害なのか 事前や当日の対策は十分だったか

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「大雨の予測は2、3日前から散々言われていたが、河川の予測は極めて短く、通常2、3時間前からしか行われていない」と、河川に詳しい東京大学生産技術研究所の芳村圭教授は指摘する。「しかし今後は、大雨予測のように河川流量の予測も十分前に行い、十分準備しておくことが必要だ」。

現在の治水対策に不安を募らせている住民も少なくない。1974年の狛江水害など多摩川は過去にも氾濫している。大田区のハザードマップでは、今回浸水被害にあった地域は多摩川が氾濫した場合、0.5メートルから5メートル程度浸水するエリアにもなっている。もとより田園調布は、高台と多摩川に近い低地の標高差が最大約42メートルと、低地に水が集まりやすい地形とも言える。

丸子川では、流域豪雨に備えて東京都下水道局や都市整備局などと一体になって対策を進めているが、今回は現時点での状態では水を抑えられなかった。

「低地が犠牲になってもしょうがないのか」

浸水から約1週間経った今でも、浸水被害にあった住民は清掃作業などに追われている。取材に訪れた日も、水没して動かなくなった車をレッカー車が引いていたり、クリーニング業者が泥で汚れた洋服の回収を行っていた。被害にあった地域には商店街があるが、営業を再開できていない店も少なくない。1人暮らしの高齢者も数多く被害にあっているが、片付けなどを離れて暮らす子供などに頼るのも限界があるだろう。

丸子側沿いに捨てられていた自転車は泥だらけだ(東洋経済オンライン編集部撮影)

報道によると、大田区は保健師などのチームを構成し、被害地に派遣しているというが、現時点では「大田区からは消毒液を配布する人とか作業員してきていない。その消毒液も原液をそのまま持ってくるから、それをスプレーボトルなどに移し換えなければいけないが、そもそもそんなものを持っている人自体少ない」と、住居が床上浸水被害にあった女性は話す。「大田区からお見舞金2万円が出たが、それでは汚れた洋服のクリーニング代にもならない」。

辻さんも13日朝に区の防災管理課に視察などを求めたが、「上の者に伝えます」という回答があったのみで、18日時点では誰も訪れた様子はないという。「被害を受けたのは、大田区にある何十万世帯のほんの一部だから、と見捨てられていると感じる。大災害を抑えられるのなら、低地でこの程度の犠牲が出てもしょうがないということなのでしょうか」(辻さん)。

田園調布駅(東洋経済オンライン編集部撮影)

今回、丸子川を挟んだ反対側の地域ではまったく被害がなかった。台風の被害を受けなかった地域からは「地価が下がるので、浸水の話があまり報道されては困る」との声が上がっているという。

絶対数で見れば590件の被害規模は大きくないかもしれない。が、床上浸水被害にあった全員の生活はたった一晩で一変した。大田区は防災計画で、浸水リスクのある地域では、住民側もそれを理解し対策する必要があるとしているが、住民の啓蒙活動始め、行政による事前対策や当日の情報共有に問題はなかったのか。住民に説明する必要があるだろう。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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