入館者大幅増、鉄道&おもちゃ美術館の合わせ技 列車から始まるユニークなミュージアム体験

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だが、日本海の小さな町におもちゃ美術館を設立しても、実際にはどれだけの人が来てくれるだろうか。貴重な廃校舎をおもちゃ美術館としただけでは、何かが足りないのではないか。

「そう思いながら、鮎川小学校の敷地を歩いていると、校庭の向こうに線路があることに気づいたんです」(多田氏)

それが、由利高原鉄道だった。年間利用者数は約22万人、毎年1億前後の赤字を出し、市と秋田県が補填をしていると聞いた多田氏は驚いた。

「そこで閃きました。鉄道とおもちゃ美術館の一体構想としてここに駅を作れば、鉄道にとっても美術館にとっても大きな利益になるのではないかと」(多田氏)

鮎川小学校の最寄り駅、鮎川駅までは直線距離では800mほどだったが、鮎川を渡る橋がないため2km近く遠回りをしなくてはならない。そこで、由利本荘市は由利高原鉄道と相談し、仙台の東北運輸局に出向いて新駅設置を働きかけた。

おもちゃ美術館にふさわしい列車を

ところが、当該地点は25‰(1000m進むごとに25mの高低差)の勾配区間であることが問題になった。何度も仙台に通い、ようやく鉄道総研の調査団が派遣されたが、軌道強化などの厳しい条件が課せられた。整備費用は概算で1億円余り。おもちゃ美術館の整備事業費約2億4000万円に対し、あまりにも高額だった。

「新駅は諦めるしかありませんでした。その代わり、鮎川駅をおもちゃ美術館のオフィシャルステーションにして、格好いいシャトルバスを走らせようと考えました」(多田氏)

駐輪場を改造した「おもちゃまちあいしつ」のある鮎川駅。クラウドファンディングでは、目標の300万円に対し528万5000円を集めた(筆者撮影)

こうして、鮎川駅がおもちゃ美術館の玄関口となったが、これだけではよくあるアクセス駅にすぎない。鉄道と美術館の一体構想をうたうなら、おもちゃ美術館にふさわしい列車が必要だ。

実は、東京おもちゃ美術館の総合デザインを担当した砂田光紀氏は、かずかずの観光列車を設計した水戸岡鋭治氏と縁のある人物だ。JR九州・肥薩線の活性化事業なども手がけ、鉄道をプロデュースするノウハウがあった。多田氏も、和歌山電鐵の「おもちゃ電車」を視察したことがあり、本気で作った観光列車が人を惹きつけることを知っていた。

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