ハワイで賛否両論、「ホノルル鉄道」が来年開業 現地では電車の利便性を知らない人も多い

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鉄道の建設現場を見て歩いた。高架上の線路はほぼ完成し、現在は駅を建設中。多くの駅でホームドアがすでに設置されている。券売機や自動改札機を設置すれば完成という駅もあった。年内には列車の試運転を、車両基地内だけでなく営業路線上でも行いたいとしている。

建設中の高架駅。周囲には何もない(記者撮影)

イーストカポレイから2駅先のホオピリという駅は畑の真ん中にあった。周囲に住宅や建物はない。実は、この一帯の土地は本土の大手デベロッパーに買い占められており、数年後に住宅街に生まれ変わる予定だという。そのため鉄道が来年開業しても利用客はほぼいない。したがって、住宅街の完成まで駅の開業はお預けとなる。しばらくの間は通過駅となる予定だ。

ハワイに鉄道は根付くか?

ダウンタウンとアラモアナセンターの中間にあり、ワードビレッジなどの大型再開発計画を抱えるカカアコ地区にも2つの駅が設置される。官民で構成される鉄道利用促進を目的とした非営利団体「ムーブ・オアフ・フォーワード」のスタンフォード・カー会長は、地元デベロッパーの社長でもある。

カー氏は駅予定地のすぐ隣に超高層マンションを建設した。「東京でも駅前にタワーマンションが林立しているのは知っている。ホノルルでもこれからは電車通勤が主流になる」と、さらなる不動産開発も検討中だ。

日本で主流の「鉄道駅を軸とした街づくり」がハワイに根付くかは未知数だ。工事の遅れや費用の増加が、「ハワイに鉄道は不要だ」という反対派を勢いづかせる。

そもそもハワイには、電車に乗ったことがないという人が多い。「車のほうが便利。鉄道ができても使わない」という住民の声をホノルルのあちこちで聞いた。

カー会長が初めて東京に出張した際、宿泊していた新宿から取引先のある有楽町にタクシーで出かけたら、「電車を使う方が早いし安い」と、相手に笑われたという。もちろんカー会長も今では鉄道の利便性を理解しているが、ハワイで根付くには時間がかかるだろう。

また、鉄道が開業しても当初はカポレイ地区の住民が近隣のショッピングモールへ買い物に行く程度の需要に限られる。ダウンタウンへの通勤、空港とアラモアナセンター間の移動など、多くの人に対して鉄道の利便性が発揮されるのは全線開業まで待つ必要がある。それまでの間は批判がやむことはないかもしれない。

本記事は週刊東洋経済8月3日号に掲載した記事「ついにハワイにも鉄道が開業、沖縄『ゆいレール』は延伸へ」を再構成して掲載しています。
大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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