パワハラですべてを奪われた56歳男性の絶望 子会社へ転籍を命じられ、年収は200万円に

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ストレスを受けると、飲食が不規則になる傾向があったマキオさんは、ピーク時で体重が100キロほどあった。休職中は、日々の食事やリハビリ内容を事細かく上司にメールで報告するよう、求められていたという。

ミノリさんは「(会社からマキオさんへの)メールには『起きて行動している間の内容はすべて記載するように』と書かれていました。それに、何かとケチをつけては、報告のやり直しを命じていました」と話す。

あわよくば、このまま退職に追い込みたい――。ミノリさんには、会社側のそんな思惑が透けてみえたという。

復職したものの年収は200万円に落ち込んだ

なんとか復職を果たしたものの、配属先はマキオさんの専門とは無縁の庶務部門。実際の仕事はトイレットペーパーの補充やポットの給水、郵便物の発送といった雑用だった。400万円近くまで減っていた年収は、夜勤がなくなったことで、さらに200万円に落ち込んだ。

この間、マキオさんは出費を抑えるため、より安い賃貸アパートへの引っ越しを繰り返し、もともと7万5000円だった家賃を、最終的には6万3000円に切り詰めた。それでも、通院費用や薬代がかさんでいたようで、アパートの更新料の支払いや、定期券の購入など物入りの月は、ミノリさんからお金を借りることもあったという。

何より負担だったのは、配属先の職場が自宅から片道2時間もかかる場所にあったこと。病気で体力が落ちていたマキオさんにとって、往復4時間の通勤は相当にこたえた。ミノリさんはこの頃、マキオさんが「体がしんどい。会社は『もっと職場に近いところに引っ越せばいい』と言うんだけど、『引っ越し代は出るんですか?』と聞いたら、『それは出せない』って……」と途方に暮れていたように話していたことを覚えている。

そして、昨年暮れ、2度目の脳出血――。会社からは、病院で付き添うミノリさんの元に、同僚が1人、マキオさんの入館証の回収に訪れたきり。その後の休職手続きなどは、人事部と書類をやり取りするだけで、上司や同僚が見舞いに来ることはなかったという。

「比較的大きな会社なので、通勤時間がもっと短くてすむ職場はあったはずです。針のむしろのような職場に、どんな思いで通っていたのかと思うと……」。なんらかの配慮があれば、2度目の脳出血は防げたのではないか――。そんな思いがぬぐえないという。

ミノリさんは取材のために、マキオさんが元気だった頃の写真や、日記帳代わりにしていた大学ノート、給与明細、業務に関する書類などを持参してくれた。いずれも、マキオさんが倒れた後、自宅を整理していたときに見つけたものだという。

マキオさんが就職したのは、バブル景気真っただ中。ミノリさんが、健康的に日焼けした男性の写真を示しながら、「若い頃のマキオさんです。社員旅行で行ったグアムでスキューバダイビングをしたときのもので、費用はすべて会社持ちだったそうです」と説明する。

超氷河期時代に就職活動を強いられ、派遣社員として働くしか選択肢のなかったミノリさんにとって、会社が費用負担をしての海外旅行など、まるで別世界の出来事だった。マキオさんの旅先での写真は、このほかにもたくさんあったが、家計が厳しくなるにつれて減っていき、ここ10年はほとんどなかったという。

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