愛さんは当時を振り返る。
「若いながらもいろいろ調べると、未婚の母として産めば、子どもに将来苦労をかけるかもしれないことがわかってきました。出生がわからないことで、結婚や就職が難しくなるなどです。だから、父の名前をしっかりと戸籍に残しておきたかった」
愛さんの望み通り、2人は入籍した。しかし案の定、夫は出産にも子どもにも無関心だった。産後3日目にようやく産院を訪れ、興味なさそうに「あ、生まれたんだ」と一言つぶやいたという。
当事者意識のない夫は、その後も愛さんを困惑させた。支給された出産一時金は自分の懐に入れ、散財。妻と子どものために、家に十分な生活費を入れようとする気配もない。
出産後すぐホステスになったわけ
子どもを育てるため、自分で稼ぐしかないと腹をくくった愛さんは、驚きの決断を下す。2週間の里帰りを終え、夫のアパートに戻った愛さんは、そのわずか3日後にはなんと、近くのクラブでホステスとして働き始めたのだ。
未経験の水商売の世界に飛び込んだのは、生まれたばかりの子どもを抱えながら、とにかく短期間でお金を稼ぐため。営業メールをし、同伴出勤をし、お客さんの誕生日プレゼントを用意し……。必死に働いた愛さんは、気づけば店のナンバーワンに。半月で80万円を稼ぎだすこともあったという。
ナンバーワンになったからといって、愛さんが”目的“を見失うことはなかった。ホステスは、あくまで子どものため、収入を得るための“手段”。稼いだ給料を自分のために使うことはほとんどなく、将来の子どもの養育のためほぼ全額貯金に回した。
水商売ではタブーとされる「子持ち」であることを隠すどころか、積極的に話題にした。それでもファンは絶えず、中には愛さんへの手土産に、子ども用のミルクを持ってくるお客までいたという。子どものために明るく懸命に働く彼女の姿が共感を呼び、人気を得ていたのかもしれない。
夫はというと、愛さんが働き始めたことに甘え、仕事を辞めてしまった。仕方なく夫に子どもを託し、愛さんは必死で稼ぎ続けた。しかし朝起きると、財布に入れておいたはずの紙幣とともに夫はパチンコ屋へと消えている。財布にお金がないと、苛立ちで殴られることもあった。DVが日常化し、殴られながら「早く終わらないかな?」と考えている自分に気づいたとき、愛さんは我に返ったという。
「友人にも『早く目を覚ましなよ』と言われて、確かにもう限界だなと。夫に離婚を申し出ましたが、お金を運んでくる私とすんなり別れてくれるはずもありません。最終的には30万円の入った封筒を渡し、土下座して頼み込みました。すると夫は『届けは勝手に出してくれ、子どもの籍も抜いておいてくれ』と……」
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