日産、株主総会後も「ルノー支配」は変わらない ゴーン氏を失ったことは大きな痛手だった
――しかし、ルノーの筆頭株主であるフランス政府は、ルノーと日産の統合を諦めていません。簡単に出資比率の引き下げを認めるとは思えません。
そのとおり。43%(の日産株)を持つルノーの優位は変わらない。交渉において日産が持つ唯一にして最大の武器が、ルノーへの出資比率を現状の15%から25%に引き上げることだ。日本の会社法上、日産がルノーの議決権の25%を持てば、ルノーが持つ日産の議決権は無効になる。実際に引き上げるかどうかは別にして、これを有効に使うしかない。
――ルノーの時価総額は約2兆円。10%分の株式を簡単に買えるものでしょうか。
投資銀行を使って5割程度のプレミアムをつけた株価を機関投資家に打診すれば、10%程度ならすぐに買える。5割のプレミアムなら約3000億円で済む。その程度の金額なら日産の財務力からすればまったく問題ない。
3000億円でルノーの支配下から抜けられれば安いものだ。ルノー以外の日産株主にメリットを十分に説得できる。私が日産のアドバイザーなら、25%へ引き上げることを勧める。
ルノーは日産を完全子会社化しておくべきだった
――日産がルノー株を追加取得した場合、ルノーはどう反撃しますか。
ルノーが50%超まで日産株を買い増すことだ。会社法は、子会社が親会社株を持つことを原則禁止している。ただし、罰則規定がなく、いつまでに違法状態を解消しないといけないとまでは定めていない。外国企業が親会社だった場合にも当てはまるのか、解釈の余地も残る。
一方、日産が25%まで引き上げた場合、ルノーが持つ議決権は即無効になる。つまり、この反撃策ではルノーが不利だ。だから、私がルノーのアドバイザーなら、日産が25%へ引き上げる前に日産を子会社化するようにアドバイスする。それも100%、完全子会社化だ。本来は1999年にそうしておくべきだった。
――FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)とルノーの経営統合交渉が浮上しました。しかし、フランス政府の対応を不満としたFCAが撤退しました。
FCAは自動車業界が直面するCASE(コネクテッド・自動運転・シェア・電動化)の技術で出遅れている。時価総額約2兆円のルノーを買えば、時価総額3兆円超の日産が付いてくる。日産は自動運転や電動化の技術に秀でており、これを安く手に入れることができるのは魅力的だ。
FCAとルノーが経営統合すれば、統合会社への日産の出資比率が7.5%に低下してしまい、日産が統合会社株を25%まで取得して、ルノーが持つ日産の議決権を無効化するハードルが上がる。それは日産としては絶対に避けたかったはずだ。FCAとルノーが統合すると台数の規模は増えるが、弱者連合でしかない。
統合会社への影響力を維持したいフランス政府の存在を嫌って、FCAは交渉を取りやめた。しかし、フランス政府の対応次第で交渉は再燃するだろう。日産にとって時間的な猶予はそれほどない。
――日産は現在、北米事業の不振を主因に急激な業績悪化に苦しんでいます。ルノーとの交渉に影響しませんか。
もちろん影響は大きい。日産の西川廣人社長が「業績回復に集中したい。経営統合を議論する時期ではない」と言うとおり、現状では日産の交渉力は弱まっている。来期にも回復するという見通しが示せれば、強い姿勢で交渉できる。
ただし、両社の資本関係がどうなろうと、ルノーと日産のアライアンスでは激動の自動車業界で勝ち残るのは難しい。西川社長はルノーとの交渉に能力を発揮しているが、攻めの経営の手腕には疑問が残る。外部から経営トップを連れてくるという選択肢も考えるべきだろう。だが、複雑なアライアンスをマネジメントできる人材がいるかどうか。不正は許されることではないが、ゴーン前会長を失ったことは大きな痛手だ。
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