レクサスにあえて「ミニバン」が加わった意味 「実用で使う」から「空間を快適に使う」へ進化

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このように、必ずしもゼロからイチを生み出す発明ではないかもしれないが、市場動向や顧客の用途や嗜好に合わせた新たな価値を付与する意味で、トヨタは市場をよく観察しているといえる。そして、要望に合わせた車種を開発・販売する力を持っている。

レクサスLMについて、レクサス広報は「つねにお客様に驚きと感動の体験を提供し続けるとの想いのもと、LMは新たなモビリティー空間を提供し、お客様の期待を超える豊かなビジネスシーンやライフスタイルにお応えすることを目指している」と話す。

実際にアメリカでストレッチリムジンに乗ったことがあるが、迎えに来た際の驚きと、室内のぜいたくさに感心させられはしたが、その居心地は必ずしも快適ではなかった。4ドアセダンを基に車体全長を伸ばしただけなので、天井が低く、窮屈な印象が否めない。しかしミニバンを基にするなら、天井が高く、自宅のリビングでくつろぐような快適さを味わえるだろう。そこに新鮮な喜びがあるはずだ。

中国で求められるクルマ

そもそもアジアでは、アルファードが高級車として認知され、憧れのクルマとなってきた経緯がある。そして経済成長が著しい中国においては、それがさらに加速し、アメリカのストレッチリムジンのような成功者の証しを表明できるクルマが求められるようになったのだろう。

横から見たレクサスLM(編集部撮影)

欧米の自動車メーカーは、馬車の時代から続く伝統的な価値観が根底にあり、また合理的な発想をするため、既存の概念から逸脱するかのような発想は生まれにくい。しかし日本は馬車の時代がなく、海外から持ち込まれたクルマという移動手段に対する固定観念がない。そこに、人をもてなすという奉仕の精神が加わることで、これまでになかったクルマの価値を生み出すことができる。

今や世界最大の自動車市場となった中国にレクサスLMが投入されれば、そこにまた新たなリムジンとしてのミニバンの価値を提供する自動車メーカーが競合しはじめるかもしれない。

今の時代にあって、一台一台を手作りするセンチュリーもあり、斬新なクルマの価値を生み出す自動車メーカーの1つとしてトヨタを見ると、世界最大の自動車メーカーとしてしのぎを削る姿とは別の好奇心に満たされるのではないか。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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