「前に出ないと気が済まない」上司の危うい思考 イエスや老子から学ぶリーダーに必要な素質

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評価基準や命令系統がはっきりしているアメリカ海軍で、優れた指揮官と平凡な指揮官の部隊を比較したところ、明確な違いがありました。

優れた指揮官は「必ず目標を達成すること」を大切にします。そのため、まずゴールに不可欠なタスクが何かを明確にしていました。

タスクについては兵士に徹底的な指導をし、こまめにフィードバックを与えます。タスクを途中で投げ出したり、目標達成の障害となる行動をとったりする兵士には、厳しい罰を科すこともありました。

ところが、ゴールに関係のない細かいルールに関しては、多少規則を破ることになっても「まあいいよ」と柔軟に対応していたのです。

小さなミスを厳しく評価した指導官

一方、平凡な指揮官は、指導に一貫性がありませんでした。ゴールに不可欠なタスクとは関係のない細かい案件を、重要なタスクのように扱うこともあったのです。ルールにとにかく厳しく、単純に「規則だから」という理由で小さなミスにもいちいち厳しい評価を下し、かえって兵士たちのやる気やパフォーマンスを下げていました。

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ビジネスの目的は、会社のルールを守ることではなく、仕事のパフォーマンスを上げ、利益を上げることです。

そのためには、リーダーは「自分が前に出なければいけない」という発想も、「チームメンバーの面倒を事細かに見なければいけない」という思考も手放し、小さな決定権を持たせて自主性を引き出すことが何より重要だといえるでしょう。

リーダーに求められるのは、前に出てチームを引っ張ることでもチームをつぶさに監視することでもなく、チームメンバーの背中を後ろから押して、ある程度任せる「推進力」のような役割なのです。

スティーヴン・マーフィ重松 スタンフォード大学心理学者

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Stephen Murphy-Shigematsu

ハーバード大学大学院で臨床心理学博士号を取得。1994年から東京大学留学生センター・同大学大学院の教育学研究科助教授として教鞭を執る。その後、アメリカに戻り、スタンフォード大学医学部特任教授を務める。現在は、医学部に新設された「Health and Human Performance」における「リーダーシップ・イノベーション」という新しいプログラム内で、マインドフルネスやEQ理論を通じて、グローバルスキルや多様性を尊重する能力、リーダーシップを磨くすべなどをさまざまな学部生に指導している。著書に『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』(講談社)、『多文化間カウンセリングの物語』(東京大学出版会)、『アメラジアンの子供たち――知られざるマイノリティ問題』(集英社新書)など多数。

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