寂れた「空き家地帯」を激減させた大阪人の意地 300m四方に飲食店など31店が出店

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飲食店チェーンであれば短期に多店舗展開は可能だろうが、和田氏は今でこそ古民家再生と地域活性を仕事としているが、もともとは耐震改修が本業。しかも、支援してくれる人たちはいても、ほぼ1人でやっているようなもの。なぜ、ここまで成功できたのか。

いくつか要因がある。1つは学生時代から今に至るまで長年かけて培ってきた人脈とそれを大事にする気持ちである。商売人だった和田氏の父親の教えは「40歳までは貯金をするな、友達の誘いを断るな、自分のために友人を作れ」。

がもよんで撤退した店舗は1店もない

同志社香里中学校から高校、大学と進んだ和田氏はそれを実践した。学内のみならず、7年在籍した大学時代には祇園のクラブや飲食店でアルバイト。飲食業界にも人脈を広げた。最初の店を作る際、和田氏は勤務していた会社を辞め、退路を断って臨んでいるのだが、その時期に生活を支えたのは当時の人脈だ。不動産所有者から頼まれたテナント募集を飲食店関係者に紹介して手数料などを得ていたのである。

がもよんでこの10余年に出店した店舗には1軒も撤退がないというが、それも人を大事にしてきた結果だ。普通、地域の飲食店同士はある意味ライバル。だが、がもよんでは仲間。仲間として互いの常連を共有するほうがつぶし合うより建設的という考えだ。

1階は昔ながらの対面の八百屋、2階は野菜中心の料理が売りの八百屋食堂まるも。ご近所の人を中心に女性ファンが多い(筆者撮影)

そのため、和田氏は新しい店舗を誘致する際には同業は避け、地域の人に欲しい店を聞くなどしている。週に1度店主が集まり、経営ノウハウ、悩みごとなどを共有、解決する場を主催しているのにも関係を深める意味がある。不動産会社であれば仲介すればそれでおしまいだが、和田氏はそこから関係が始まり、店がある限り、付き合い続けるというスタンスなのである。

テナント募集の広告を出さないのも紹介のほうが信頼できるという理由からだ。この町に店を出したいと思う人なら、やってきて町の様子をうかがうはず。そこで現在営業している飲食店主に相談をし、その店主がこの人だったらと思ったなら和田氏に連絡が行くはず。そのほうが広告経由の見も知らぬ人とやりとりするより確実というのである。

本格的なピザ窯が売りのピッツア店「スクオーレ」の店主と和田氏。がもよんではどこにいても、声を掛けられる存在だ(筆者撮影)

「町は人が作っているもの。人に人が集まります。その最たるものが飲食店。成功している飲食店は腕がいい、適正な価格は当たり前で、加えて店主の人柄がある。だから、店を出してくれるなら誰でもいいのではなく、いい人、よこしまじゃない人、長く付き合いたい人を選ぶのが大事。そうすれば人が集まります」。

店を作れば人が来るのではなく、惹きつける力のある人が店をやるから人が来る。箱を作りさえすれば町は活性化するだろうという、再開発などの箱もの優先の考え方とは真逆である。

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