JR九州とは違う、西鉄「レストラン列車」の勝算 秘密兵器は車内の「窯」で焼く出来たてピザ

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九州といえば、JR九州が「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と銘打って各地で運行する観光列車が人気だ。この3月には、福岡県北部を走る第三セクター鉄道の平成筑豊鉄道にもレストラン列車「ことこと列車」がデビューした。全国的に見ても観光列車の運行が盛んな地域であることは間違いない。

「ザ レールキッチン チクゴ」の乗務員。車内で沿線の案内などもする(記者撮影)

だが、西鉄に「競合」という意識はとくにない。吉中課長は「ここで『負けない』とかいったほうが面白いかもしれないですけど」と笑って前置きしつつ「地域のものを取り入れた列車であれば、走る場所が違えばおのずと性格が変わってくるはず。うちの列車も含めていろいろな列車が走ることで、九州が『観光列車の宝庫』になるといいなと思う」と話す。

観光列車の先駆者であるJR九州も考え方は同様だ。同社の青柳俊彦社長は「観光列車がたくさん出るのは大いに結構なこと。ライバルというより仲間が増えたと思っている。そういう(観光列車に乗る旅という)楽しみ方が一般的になれば、われわれのD&S列車にもさらに多くの方が来てくれると期待している」との考えを示す。

「いいレストラン」になれるか

ただ、すでに数多くの観光列車が走る九州で、西鉄が「新参」なのは事実。今のところ予約は順調だが、人気の継続には何よりも地元客の評価を得られるかが重要となる。

利用シーンとして想定しているのは「日常の中の少し特別な日や、福岡を離れた方が帰ってきたときなど」。ちょっといいレストランに行くようなイメージだ。

料金は、西鉄福岡(天神)から大牟田への「ランチの旅」と、逆方向の「ディナーの旅」が8000円。6月からは、西鉄福岡(天神)から太宰府まで約40分の「ブランチの旅」もスタートし、こちらは3000円だ。食事を提供する観光列車としてはそれほど高くない料金設定だが、列車の狙いからいえば「ちょっといいレストラン」のような存在として金額に見合う満足度を感じさせられるかどうかがポイントとなるだろう。

到着後の観光も課題といえる。予約用webサイトでは「旅のプラン」として乗客専用の大牟田観光タクシーツアーを案内しているが、ほかは沿線観光地案内サイトの紹介のみだ。「パッケージツアーのような形ではなく、沿線情報を発信して自由に遊んでいただく形にしたい」(吉中課長)という狙いだが、各コースとも片道の運行だけに、降りた後の楽しみ方の提案を充実させることも重要だ。

いわゆる観光路線ではない西鉄が乗り出した地元志向の観光列車。駅ホームで列車を見た沿線利用者からは「1回くらいは乗ってみたい」との声が聞かれた。「地元で人気の店」のような存在として、その評判が沿線外からの観光客を呼ぶまでに発展するためには、その1回をリピートに結び付けるための工夫を続けることが不可欠だ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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