JR九州とは違う、西鉄「レストラン列車」の勝算 秘密兵器は車内の「窯」で焼く出来たてピザ

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西鉄は、沿線に「学問の神様」太宰府天満宮や、水郷として知られる柳川といった観光地を抱えてはいるものの「メインは生活路線」(吉中課長)。観光客向けの列車としては、2014年から太宰府をテーマとした「旅人(たびと)」、翌年からは柳川をイメージした「水都(すいと)」を走らせているが、これらは通勤通学客も利用する特別料金不要の一般列車としての運行だ。

その路線で本格的な観光列車を、しかも地元客を主なターゲットとして登場させた背景には、列車名である筑後、つまり福岡県南部の人口減少に対する危機感がある。

同社が「車内で料理を提供する観光列車」の導入を発表したのは2017年4月。当時の会見で、倉富純男社長はその狙いを「沿線、とくに福岡県南部の活性化」とし、「南部は人口が減ってきており、利用者数も成長はなかなか見込めない。福岡都市圏の方々に乗っていただくことで南部と沿線を知ってもらい、さらに公共交通のよさを知ってもらうことにつなげたい」と説明した。

「食事」を中心にした理由

企画が本格的にスタートしたのは2015年の夏。吉中課長は「食事をすることがマストの条件だったわけじゃないんです」という。

「ランチの旅」のメニュー。ピザをメインに、地域の野菜などを使った料理を提供する(記者撮影)

観光列車といえば「車窓」を売りにすることが多いが、西鉄には山岳区間や海沿いといった「絶景スポット」はなく、車窓に広がるのは住宅地と田園風景だ。全線が平野を走るため、全国の大手私鉄16社の中で唯一、地下線を含めてトンネルが1つもない鉄道でもある。

だが、全国各地の観光列車を調査した吉中課長が気づいたのは「食事をしているときは食べることや会話を楽しんでいるので、みんながずっと景色を見ているわけではない」ことだった。

そこで行き着いたのが、車内で食事を楽しむ列車だったという。「流れる景色は大事ですけど、必ずしも絶景じゃなくても十分楽しめる。福岡は食べ物がおいしいというイメージがありますよね。沿線には農産物もたくさんある。そうするといちばんはやっぱり食事だよね、という発想でした」と吉中課長は振り返る。

目指すのは、地元で愛される人気店のような存在だ。「まず地域で愛される存在になることで、エリア外の方にも乗ってみたいと思われる列車にしたい。観光客の方も『地元で人気のお店です』と言われると行ってみたくなるじゃないですか」。季節ごとのメニューなどでリピーターを生み、沿線から評判が波及する形で地域外や外国人観光客からも人気が高まることを期待する。

次ページ「観光列車激戦区」への参入だが…
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