新型「ポルシェ911」は何がどう進化したのか 変化しながらも「定番」として人気を保つ理由

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新型911は車体の剛性感がより高く、快適性が増していた(写真:ポルシェ ジャパン)

走りのテイストは誤解を恐れずに言えばタイプ991とよく似ている。タイプ997からタイプ991へと進化したときには、よりスーパースポーツの領域に近づく大幅なジャンプアップを感じさせたが、それに比べれば今回はあくまで正常進化という態である。しかしながら、車体の剛性感はより高く、快適性は増し、サーキットでのパフォーマンス、そしてコントロール性も一層向上している。

スポーツカーの性能指標であるドイツ ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは従来より5秒速い7分25秒を記録したという。前出のアハライトナー氏曰(いわ)く「タイムだけを狙うなら10秒短縮もできたかもしれませんが、このクルマは911。全方位バランスの取れた性能向上を目指しました」とのこと。つまり、まだ余力はあるということだ。

実際、タイプ992は快適性や安全性の面でも大幅な進化を遂げている。インテリアは一新され、これまでアナログだったメーターは、唯一残された中央のアナログ回転計の左右に7インチディスプレイが並ぶデジタルパネルとなり、ダッシュボード中央にも10.9インチサイズのPCM(ポルシェ・コミュニーケーション・マネージメント)の大型タッチスクリーンが備えられ、多彩なコネクティッド機能を活用できるようになった。

定番であり続けるのは簡単ではない

運転支援装備も充実した。衝突被害軽減ブレーキ、緊急自動ブレーキは標準装備に。夜間の視認性を高めるナイトビジョン、駐車の際にパークアシストやサラウンドビューなども装備リストに加わっている。先に触れたウェットモードもそうだが、スポーツカーに運転支援装備なんて不要というのは古い考え方。スポーツカーらしい性能をフルに引き出すのはサーキットなど限られた場にとどめて、そこまでの往復は快適、安全に過ごしてもらうというのが、この時代のスポーツカーメーカーの提案である。

それにしても新しい911を開発するというのは本当に大変な仕事だ。冒頭で簡単に定番という言葉を使ったが、定番であり続けるのは簡単ではない。変わらなければ時代に取り残され、いきすぎれば拒絶される。往年のファンは裏切れないけれど、新しい層にもアピールしなければならない。しかも、そもそもクルマ自体のあり方が大きく変化している時代である。スポーツカーがどうやって生き残っていくのかは、彼らにとっても大きな課題に違いない。

タイプ992こと新型ポルシェ911は、基本性能を大幅に引き上げつつもプラットフォームの刷新によりコストをグループ内で分散し、コネクティッド機能をそろえ、そして電動化への準備も整えた。そこに見えるのは、時代がどのように変わろうとも911を造り続ける、届け続けるという覚悟。それが商品からはっきりと伝わってくるからこそ、911は定番として長く愛され続けているのである。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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