イスラム教徒を悩ませる「愛」と「お金」の大問題 最悪の場合「牢屋に入れられる」リスクもある

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実際には「相場」があったり、離婚の際の婚資の金額だけを決め、実際に離婚をした際にのみ支払うという取り決めを結ぶことも少なくないようです。

ちなみに「相場」は軒並み高騰しており、準備するのが大変なようです。お金持ちの国で知られるUAE(アラブ首長国連邦)などでも、高い婚資を準備、支援するための結婚基金というものが設立されています。近年、エジプトやイランなどでは、若者の失業率が高水準となっていますが、これは結婚と直結する問題であり、人生最大の楽しみの前に立ちふさがる大きな壁なのです。

そこで婚前に婚資の支払契約を交わすものの、支払いは実際に離婚する際になってから、という新たなルールも生まれましたが、離婚の際に支払えなければ同じことです。

イランの場合には、離婚の際に婚資を支払えず投獄されるケースも少なくありません。結婚する際には、「愛」によって目がくらんでしまったのか、はたまた離婚のことなど毛頭考えずに一生添い遂げるつもりであったのか、高額の婚資を設定してしまい、支払えないということが背景にあるようです。最初から婚資で儲ける「美人局(つつもたせ)」もいるようです。口先だけで大きいことを言ってはいけないなと心底思います。

イランでは婚資が支払えず投獄される事例が深刻化し、婚資の上限が設定されました。といっても、金貨110枚までですので、金貨1枚が純度90%の8.13gと決まっていることを考えると、400万円ぐらいは準備しないといけないことになります。

妻をお金で苦労させてはいけない

準備しなければならないお金は、婚資だけではありません。結婚した男性は女性を庇護する存在であり、それには経済的な庇護、つまり結婚契約後にかかるお金を負担する義務が求められます。つまりお金で苦労させないということです。

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そのためイスラム法上の明確な規定はないものの、妻を迎え入れるための経済的な準備も男性側にのしかかってきます。マイホームにマイカー、家電などお金がどんどん飛んでいきます。「愛」には、お金がつきものということですね。

婚資の話がまとまれば、あとは結婚の契約を証人の前で誓うことになります。2人以上の成人ムスリムの前で行うのですが、しばしば1人はイスラム法学者、つまりはお坊さんを証人に立てて行います。

イスラム法学者は、結婚の契約が行われたことを証明する文書を発行してくれます。結婚式の前に済ますこともありますが、結婚式に呼んでその場で誓いを立て、証明書を書いてもらうこともあります。

結婚式には、地域それぞれの結婚式用の民族衣装を着用していましたが、近年では欧米式の純白のウェディング・ドレスで行うことが中東でも多いです。

椿原 敦子 文化人類学者

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つばきはら あつこ / Atsuko Tsuabkihara

1974年岐阜県生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間科学)。現在、龍谷大学社会学部講師。ムスリムを中心としたアメリカの移民コミュニティについての研究を行っている。著書に『グローバル都市を生きる人々――イラン人ディアスポラの民族誌』(春風社、2019年)など。

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黒田 賢治 中東・イスラム研究者

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くろだ けんじ / Kenji Kuroda

1982年奈良県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科東南アジア地域研究専攻博士課程修了。博士(地域研究)。現在、国立民族学博物館現代中東地域研究拠点特任助教。現代イランを中心にムスリム社会の研究にたずさわる。

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