トヨタが「聖域」に手をつけざるをえない理由 系列の実質一本化で販売会社は大競争時代へ
トヨタ本体が抱く危機感に呼応して、新たな取り組みも始まっている。
「27台には驚いた。これほど売れるとは思っていなかった」
神奈川県を拠点とする有力販社、横浜トヨペットの福山正雄・店舗活動開発部長は声を弾ませた。同社は2018年末、小田原市の大型商業施設に新コンセプト店を開設。27台は開設後2カ月間でこの店が生み出した新車の販売台数だ。うち8割がトヨタ車以外からの買い替えだった。この店は新車販売よりも自動車保険やカー用品などの相談に重きを置き、車の購入に関心がある客を自社の近隣5店舗につなげる。
店の展示車はプリウス1台のみ。ロードサイド店とは違った柔らかい雰囲気が特徴だ。女性のコンシェルジュ4人が接客し、週末にはさまざまなイベントを開く。子ども向けには菓子作り教室、親向けには車の日常点検講座といった具合で、客と気軽に話せる関係作りに力を入れる。「従来リーチできていなかった客層に出会えている。販売店にはまだまだできることが多い」(福山氏)。
国内販売150万台にこだわる意味
トヨタは日本のモノづくりの基盤を維持するのに必要な生産規模として「国内300万台」を掲げ、リーマンショックの翌年と東日本大震災の年を除いて、これを死守してきた。そのうち輸出は国内販売とほぼ同じ150万台。しかし、世界的に保護主義が再燃し、海外での現地生産を求めるプレッシャーが高まる中、一段の輸出拡大は難しい。市場は縮小しても、国内販売をむしろ増やしたいのが本音だ。
そうした危機感や改革の必要性は販社の経営者に徐々に浸透しつつある。ただ、「理解しているのは半分くらい」とトヨタ幹部は打ち明ける。理解がなかなか進まないのも、販社の経営が比較的好調だからだ。
新車販売への依存度を下げ、整備や保険、中古車販売などで安定的に収益を上げる体質への転換も進んでいる。既存ビジネスで十分に稼げているからこそ、差し迫った脅威を感じにくいとも言える。しかし、自動車を取り巻く環境が変化しているのに何もしないでいると、「ゆでガエル」になりかねない。
昨年11月の販売店大会では、豊田章男社長から「今、変わらなければならない。そう思っていただけただけで結構です」との言葉まで飛び出した。長らく維持してきた護送船団方式にトヨタみずから終止符を打ち、各販社の経営者に奮起と変革を迫る。
トヨタは今年1月、役員数を大幅に削減するフラット化人事も断行。「即断、即決、即実行」ができる体制作りが狙いだ。変化のスピードを上げなければ新しい競争の時代に生き残れないという強い焦燥感が経営陣にはある。ただ、危機感を煽り続けるにも限界がある。今後はこうした「ショック療法」の成否が問われてきそうだ。
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