有楽町線「豊洲-住吉」延伸が先行しそうな事情 首都圏の新線・再開発計画、実現度には濃淡

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一方、もう1つの羽田アクセスルートである「新空港線(蒲蒲線)」は、17年に大田区の松原忠義区長が事業主体となる三セクを同年度中に設立したいと表明したものの、その後の進展は足踏み状態が続く。

課題は区と都の費用負担割合だ。2017年度中には合意に至らず、三セク設立のために計上した1億8000万円の予算は執行できなかった。協議は続いており、大田区の新空港線担当者は「関係者間で合意形成できれば整備主体を立ち上げられるところに来ている。今がいちばんの重要な局面」と語る。

郊外で進む新線構想は「導入空間」確保がカギ

一方、「ハード面」での準備が進んだ路線もある。大江戸線の延伸だ。地下に線路を建設するための道路整備や周辺整備が進展し、中間駅の予定地には駅前広場の空間が確保されている。ただ、時期についての明確な見通しは今のところない。

多摩都市モノレールの延伸も、導入空間となる道路の整備がカギだ。この点では北部の上北台─箱根ケ崎間が先行しており、多摩センター─町田間は想定ルート約13キロメートルのうち、導入空間が確保されているのは現状では7キロメートルにとどまる。

ただ、町田市の石阪丈一市長は18年3月に議会での答弁で「6年間で手続きなどを終え、本格整備に着手してから8年ないし10年以内には開通を果たしていきたい」と表明。市は32年ごろを念頭に周辺整備を進めつつ、都に早期の事業化を求めていく方針だ。

具体化に向けた動きがじわじわと進みつつある東京圏の新線構想。関係者らは利便性向上とともに、新たな駅の設置による人口増加や地域活性化に期待を寄せる。

だが、「持ち家志向が薄れ、利便性重視の志向が強まっている今、新線開業で駅ができても、商業施設の拡充や都心へのアクセスなど路線の力が問われる」と不動産コンサルティング会社・トータルブレインの杉原禎之専務は指摘する。事業化の判断に注目が集まりがちな新線構想だが、最も重要なのは開業後を見据えた街づくりのビジョンだろう。

『週刊東洋経済』2月16日号(2月9日発売)の特集は「最強の通勤電車」です。
多摩都市モノレールの町田までの延伸は2032年ごろか(撮影:大澤 誠)
小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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