新たな対韓強硬策、ジェトロ事業の中止検討 日韓緊迫を受け、事務所代表の帰国も視野に

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一方で、韓国における日本経済のプレゼンスは以前ほど大きなものではなくなっているのも事実だ。それゆえに、韓国の文在寅政権は日本をそれほど重視しておらず、あるいは無視に近い姿勢を示しているという指摘も根強い。ゆえに日本との関係が悪化しても気にならないという声もある。

実際、2018年の統計を見ると、韓国にとって日本は輸出相手国として5位(貿易額全体の5.1%)、輸入相手国としては3位(同10.2%)だ。輸出入ともに最大の貿易相手国である中国(輸出26.8%、輸入19.9%)と比べると、日本の経済的プレゼンスは確実に低下している。また、韓国・産業通商資源省によれば、2018年に日本企業が韓国に投資した金額は13億ドル(約1424億円)と、前年比で約3割も減少した。

とはいえ、ゲーム関連のコンテンツやIT(情報技術)のようなデジタル関連産業や医療機器などの精密機械、金融・保険分野での投資といった面では、前年比二ケタのペースで日本からの投資を増やしている。

JETROが2018年12月に発表した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」を見ると、韓国に進出した日系企業のうち、2018年度決算で営業黒字を見込むと回答した企業は84.9%に上る。また前年比で営業利益が改善した日系企業は31.8%、横ばいが43.2%となっている。さらに、今後1~2年の事業展開の方向性について「拡大」と答えた日系企業は42.5%、「現状維持」は53.7%という結果が出ており、日本企業にとって韓国は十分にビジネスが成り立つ国の1つなのだ。

事業停止は日本企業にとってマイナスに

仮にJETROが事業停止をしても、韓国政府への影響は限定的とみる声もあがる。長年、日韓ビジネスを手掛けたある商社マンは「JETROは政府機関だが、その相手は民間がほとんど。韓国政府と直接関係のある業務がメインではない」と指摘する。

韓国に進出した日本企業の輸出入業務をはじめ、ビジネス全般に対する支援を行うこと、また韓国企業の日本進出をサポートすることがそもそもの主業務であり、JETROの事業停止がどこまで韓国政府に影響を及ぼすかは疑わしい。「経済関連で政府間交渉や要請をするのであれば、現場からは在韓日本大使館経済部が前面に出るが、JETROはその立場にはない」(同)。

さらに、JETROの事業は韓国のために一方的にやっているわけではなく、日本企業からのニーズがあったうえで支援や事業を行っているケースがほとんどだ。

最近では、日本国内の人手不足を背景に、韓国人の若者が日本企業へ就職するケースが増えているため、就職関連のイベントに協賛、後援するケースがあった。これも日本企業が人材確保に困っており、人材へのニーズがあるからこそ。事業停止が行われれば、かえって日本企業にマイナスの影響が出ることも考えられる。

日本の他省庁も、韓国と関係のある外郭団体の事業を中心に、韓国に厳しい姿勢を取る模様だ。日韓関係がさらに悪化する中、日本政府がこのような対応を取ることで、韓国政府の対応も厳しくなる可能性が高い。そのような対立が結局、双方の国民に不利益を被らせることにならないか。両国政府には建設的な関係改善のための知恵が今こそ求められる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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