化学業界は事業再編が各社の信用力を左右 《スタンダード&プアーズの業界展望》

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国内企業の信用動向

スタンダード&プアーズが格付けを付与している国内化学企業は旭化成(A/安定的/--)、東レ(BBB+/安定的/--)、三井化学(BBB/安定的/--)、住友化学の4社である。4社とも総合化学メーカーで、規模も大きく事業基盤が強固であるうえ、国内だけでなくある程度海外でも収益を上げて地域分散がされており、事業の多角化による収益源の分散も格付けに織り込まれている。そのため、原材料価格の変動や景気後退においてある程度耐性があることから、当面収益が圧迫されたり積極投資により有利子負債やキャッシュフロー創出力に負荷がかかっても、財務が著しく悪化するとは見込んでいない。またエチレンなど汎用品については、海外での増産体制や足元の需要の低迷により供給過多の状況が続き、各社が収益の大幅な悪化を避けるために設備の統廃合を行う可能性がある。

旭化成が最も信用力が高いが、アウトルックが「ポジティブ」なのは住友化学だけである。主に医薬・農薬の収益拡大による多角化がさらに進むと見ていることや、このサウジアラビアでの石油化学プラントの合弁事業の稼動による事業基盤の強化を織り込んでいるためである。

スタンダード&プアーズでは、格付け付与企業の信用力分析に合弁事業のリスクを織り込むために財務の調整を行うことがある。格付け付与先企業による合弁企業への財務サポートの確度に応じて、合弁企業の財務諸表を格付け付与企業の財務諸表に(1)100%連結する(2)出資比率分を按分して連結する(3)全く連結しないか−−を決定する。住友化学の場合は(2)に基づく調整をしており、調整後の同社の総資本に対する有利子負債比率は46%(調整前41%、 2008年3月期)、有利子負債に対する営業キャッシュフロー(FFO,運転資金調整前)の比率は、18%(同24%、同期)と若干悪化はするが、限定的である。なお、同計画は現在稼動前であるためキャッシュフローはまだ創出されていないが、スタンダード&プアーズは、将来ペトロラービグから創出される収益・キャッシュフローを一定の想定に基づいて格付けに織り込んでおり、これらの財務指標にある程度の改善を見込んでいる。

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