自動車業界に迫る中国ベンチャー企業の脅威 「バイトン」の垂直立ち上げに見る既視感
ではどこが注目に値するかと言えば、その成り立ちや先進的なコネクテッドカーのコンセプトに加え、設立当初から本拠地である南京市の巨額出資を受けて、年間生産台数30万台の規模での工場建設を進めていることだ。しかも、(少なくともビデオを見る限り)急作りの生産ラインではなく、現実的な量産ラインとして開発が進められているように見える。
2018年秋にはパイロットラインで生産された100台を販売済み。バイトンに出資する企業には、中国のトップ自動車メーカー「FAW(中国第一汽車集団)」も名を連ねており、彼らの車が人気を集めれば、FAWの生産設備を用いての増産も可能とみられる。
バイトンが将来、大きな成功を収めてテスラ以上の存在になるかどうかはわからない。しかし、極めて合理的に構成されているバイトンの開発プロセスやビジネスモデルは、今後、グローバルに展開する中国EVスタートアップのロールモデルになるだろう。
ネットへの接続、クラウド型サービスとの連動、48インチディスプレーをはじめ、タッチパネルと多数のディスプレーを用いた先進的なユーザーインターフェース、顔認証技術と自動運転の組み合わせで実現するさまざまな快適性、AI技術と組み合わせた各種機能などは、これまでの車とは一線を画すユーザー体験を提案している。
もちろん、自動車市場が急に明日、あるいは今年から変化するとは思えない。しかし、産業のイノベーションは水面下で広がり、市場ルールが突然変化するものだ。バイトンのような、新興コネクテッドカー隆盛の先にあるのは、既存自動車産業の“突然死”かもしれない。
フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)全盛時、iPhoneが登場した頃の状況に似ている。
「バイトン」とは?
バイトンを立ち上げたのはBMW i部門を率いていたカーステン・ブライトフェルド氏と、インフィニティ(日産の高級車部門)の中国事業のトップだったダニエル・キルヒャート氏だが、この2人を口説いたのが、中国でも最大級の自動車ディーラー「中国和諧汽車(チャイナ・ハーモニー・オート・ホールディング)」の創業者でもある馮長革氏だ。
BMW i、テスラ、ルノー・スポール、グーグルの自動運転自動車部門やアルパインといった自動車関連会社の幹部がバイトンに参加している。2018年1月に発表したコンセプトカー「M-Byte Concept」、9月に中国で販売が開始された「M-Byte」をデザインしたのは、BMW i3などをデザインしたベノイ・ジェイコブ氏。
主要コンポーネントや車体制御まわりの技術にはボッシュ、座席や内装などの部品は仏フォルシア、電池は2017年にパナソニックを抜いて世界一のEVバッテリーメーカーとなった寧徳時代新能源科技股(CATL)がパートナーに名を連ねている。
すなわち、ドイツ自動車産業を支えるコンポーネントやデザイン力と、EV先進国で自動運転に関する規制が緩く、またAI技術の活用に積極的、かつ安価に工業製品を量産できる中国企業の優位性を生かせる事業環境で立ち上げられたのがバイトンだ。
しかし、最も大きな特徴は、通信機能と大型のディスプレーを備え、スマートフォンのような直観的な操作を取り入れたユーザーインターフェース、個人認証技術やAI技術を組み合わせることで、自動車とドライバー、搭乗者の新しい関係性や体験を、自動運転時代ゼロベースで構築し直していることだ。
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