2019年米中貿易戦争はどう展開していくのか トランプ大統領と共和党では目的にズレも

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米中貿易協議は2019年1月7~8日、中国で開催された次官級会合に続き、同年1月末にはロバート・ライトハイザーUSTR代表と劉鶴副首相の会合がワシントンで開催される見通しだ。

ライトハイザーUSTR代表が米中貿易協議をアメリカ政府代表として率いることは、中国政府にとってようやくアメリカ側の担当窓口が明確化したといった面で安心材料である。これまでは、ウィルバー・ロス商務長官、スティーブン・ムニューシン財務長官がアメリカの交渉で中心的役割を果たしたものの、通商交渉で大統領の信任を得ていない両者との協議は前進しなかった。2018年12月、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開催された米中首脳会談の夕食の場で、トランプ大統領は皆の前で「彼が私の交渉官だ」と叫んだという。

ライトハイザーUSTR代表は、直近で米韓FTA(自由貿易協定)再交渉やUSMCA(新NAFTA)交渉をまとめ上げて、大統領から絶大の信頼を得ているのだ。だが一方で、ライトハイザーUSTR代表は大統領と異なり貿易赤字解消など短期的な解決策ではなく、中国の国家資本主義に基づく不公正貿易慣行の是正といった構造的問題に対する中長期的な解決策を求めることが想定され、やや食い違いが見受けられる。

なお、中国も構造的問題の改革は避けたいがために、アメリカからの輸入自主拡大(VIE)など短期的な解決策で合意に至ることを望んでいるに違いない。ライトハイザーUSTR代表の求める構造的問題については2019年3月1日までに合意に至ることは容易ではない。現在、ベストシナリオとして考えられているのが、両国が今後の取り組み内容にコミットする中、交渉を延長し、1974年通商法301条の第3弾追加関税の引き上げ時期を交渉に合わせて延期することだ。

トランプ大統領は、2016年大統領選で自らを当選に導いたラストベルト(さび付いた工業地帯)の労働者の要望に真摯に応えようとする姿勢がみられる。2020年大統領選に向けたキャンペーンが徐々に活発化し、アメリカ経済にも影響が出てくる中、大統領は成果を見せる必要があり、どれだけの期間、ライトハイザーUSTR代表と中国側の交渉に辛抱するかが今後の米中協議の行方を左右するであろう。

アメリカは単独では損、他国との連携が必要

ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所のチャッド・ボーン上級研究員は、アメリカ単独では中国の構造的問題は解決しないと主張する。その理由として、経済学者マンサー・オルソンが提唱した「フリーライダー問題」を挙げている。仮に中国の構造的問題をアメリカ単独で解決したとしても、米企業だけでなく、同じ構造的問題に直面している中国で事業を行う欧州企業や日本企業といった他国の企業も恩恵を享受することになる。つまり、欧州や日本はフリーライダーとなり、アメリカが単独で解決するインセンティブに欠けるという。

オバマ政権下においても、中国との構造的問題解決を狙った米中投資協定の交渉が失敗に終わったのも、フリーライダー問題が原因だと同研究員は指摘する。さらには農産品については、中国がアメリカ産穀物に関税をかけたとしても、ブラジルなど他国から調達することも可能だ。したがって、アメリカは多国間で連携しなければならないという。

アメリカ議会では誰もが中国の国家資本主義政策を問題視しているが、議会共和党も政権が単独で対中関税をかける対策には同意していない。トランプ大統領はライトハイザー代表が進める交渉にいずれ介入し短期的な解決策合意を迫らない限り、2019年はアメリカのさまざまな産業への被害が拡大することが見込まれる。アメリカ産業界、そして議員の地元選挙区からも被害を訴える声が、今後、さらに高まることが予想される中、トランプ政権に残された交渉時間は限られているかもしれない。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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