中国人の街・川口で広がる「日本人との距離」 芝園団地の人々は何を考えているのか

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芝園団地内には数軒の中華料理店がある(写真:筆者撮影)

この女性に「日本語はできる?」と聞いてみたところ「うん、少し……」と小さな声で答え、母親と顔を見合わせて笑っていた。

とくに生活に不便はないのだろう。団地に隣接するスーパー「マミーマート」でも、レジで日本語を話す必要はなさそうだった。

団地の敷地内に数軒ある中華料理店や雑貨店の経営者や店員は、ほぼ全員が中国人だ。以前、ここに住んでいたという友人の中国人によると、団地から徒歩で行ける蕨市立病院にも中国人看護師がいるので心強いという。

「中国人だけ」の社会

日本に住む中国人には、都心の大企業に勤務するエリート会社員も増えてきた。中国の経済躍進を追い風に、日中の橋渡しをしているような国際人材の存在がクローズアップされている。彼らはいわゆる、日の当たる存在だ。しかし、その一方、生活のために子どもを中国の祖父母に預け、自分たちが長時間稼いで仕送りをしている家庭、日の当たらない存在もまだまだいる。

団地内の掲示板に貼られた中国語と日本語の注意書き(写真:筆者撮影)

後者の“古いタイプの中国人”が、芝園団地などに代表されるような、中国人が多い地域に集まって住み、助け合いながら生きているということなのだろう。それはそれでいいことなのかもしれないが、筆者には心配もある。日本に住んでいながら、中国人だけの社会を構築し、その中でのみ生きる人がどんどん増えていき、日本社会に溶け込まないままになるのではないか、ということだ。

ある時、芝園団地に住む中国人に「次に来たら、あの中華料理店で食べてみたいな」と言ったところ、大変驚かれた。「ここに住む日本人は、中国人がやっている店にはまず行かないですよ。お互いに通う店はまったく違うし、行動様式も異なる。彼らは同じ団地に住んではいるけれど、交わることはほとんどないんです」というのだ。

また、こんなこともあった。中国人ママたちが主催するフリーマーケットが集会所で行われたときのこと。声を掛けた女性から「えっ? あなた日本人なの? ここに日本人もくるのね」と言われた。嫌味で言っているのではなく、純粋に驚いたようだった。

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ひとつの団地の敷地の中で毎日のように顔を見合わせていても、お互いにコミュニケーションすることはほとんどない。「冷ややかな分断」という言葉が浮かんだ。

数年前までは夜中の騒音やゴミの捨て方、子どもの外でのおしっこなどの問題が起きていたが、管理するURが中国語の通訳を置いたり、注意の貼り紙を増やしたりするなどして対応した結果、最近では住民同士のトラブルは減ってきたという。

しかし、トラブルが減った=何も問題が起きていない、というわけではない。コミュニケーションがないから、表面的なトラブルはないだけ、ともいえる。

分断したままの“快適な生活”は、続くだろうか。何かトラブルが起きたとき、まったくコミュニケーションを取ってこなかった外国人のことには疑心暗鬼になりやすい。「ここには〇〇人がいるから……」といった根拠のない臆測や批判が湧き上がる可能性はないだろうか。

私たちは新しい“隣人”たちについて、もう少し知る必要性があるのではないか。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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