中国人の街・川口で広がる「日本人との距離」 芝園団地の人々は何を考えているのか
筆者が知る限り、芝園団地内の日本語教室はこの2つのみだが、もしかしたら、ほかにもSNSで連絡を取り合い、団地内の中国人が集まって日本語を学んでいるのかもしれない。
芝園団地は“中国人比率が非常に高い団地”として近年、全国的に有名になった。川口市の人口約60万人のうち、中国人は約2万人。自治体別の在留中国人数で全国第5位だ。東京都、大阪市などの大都市を除くと、中国人比率の高さは群を抜いている。その象徴的な存在が、このUR都市機構の賃貸住宅、芝園団地だ。2018年6月時点で、約4500人いる住民のうち、約半数の約2300人が中国人、あるいは中国にルーツを持つ人々となっている。
筆者は今春から拙著『日本の「中国人」社会』の取材のため、団地に何度も足を運んできた。最寄り駅のJR京浜東北線、蕨(わらび)駅から団地に向かって歩き始めると、すれ違う人々から聞こえてくるのは、ほとんど中国語だ。
敷地内や近隣する通りには中国人向けと思われる中華料理店や中華食材店が軒を連ねている。団地は中庭を囲んでひとつの小さな街のようになっているが、全部で8棟ある居住棟のエレベーター付近には、ゴミ出しや騒音に関する注意事項や行事のお知らせが日本語と中国語で併記されている。
平日の昼間や週末に中庭を歩くと、元気に遊び回る子どもたちと、中国から「子守り」のためにわざわざ来日した祖父母たちが大勢いて、日本の一般的な団地とはかなり雰囲気が異なる。筆者は長年中国と中国人を取材してきたが、全住民の半数が中国人というのは、かなりのインパクトだ。現地に行くたびに「まるで中国の小区(集合住宅)みたい」という感覚に襲われる。
芝園団地に多くの中国人が集住するようになった理由
有名になった芝園団地だが、中国人たちが何を考えているのかについてはあまり報じられていない。
そもそもなぜ、芝園団地にこれほど多くの中国人が集住するようになったのか。自治会や、住民、元住民などへのインタビューを総合すると、主に以下のような理由が考えられる。
・1980年代から1990年代にかけて新宿や池袋の日本語学校に中国人留学生が増えたが、彼らがしだいに郊外の安くてアクセスのいい地域の物件を求めるようになり、移住してきた
・IT企業のエンジニア用の寮として借り上げられている
・友人や親戚など、中国人同士のクチコミを頼ってきた
・すでに中国人コミュニティーが形成されていて、母国語で情報を得やすい
自治会によると、増えてきたのは1990年代後半からで、当初は何らかのきっかけで大学教授などのエリート層が入居し始めたという。以降、東日本大震災の年などを除き、毎年、右肩上がりで増え続けているそうだ。
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