「どん兵衛・0円タクシー」稼ぎ方のカラクリ タクシー配車アプリ競争は今後、激化する

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MOVの開発のため、ディー・エヌ・エーは2018年4月から神奈川県で配車サービス「タクベル」の実証試験を行い、導入前と比べて、タクシー乗車数が大幅に伸びたことを証明できたとしている。

「タクベル」の特徴は、他社の配車アプリが「無線機連携方式」として有人オペレーターシステムにつながるのに対して、「アプリ連携方式」としてAIを活用した自動配車システムと有人オペレーターシステムを並行して稼働されている点だ。

「どん兵衛タクシー」の運転席には「MOV」を使うスマートフォンが(写真:筆者撮影)

ディー・エヌ・エー執行役員オートモーティブ事業本部長の中島宏氏は、日本は都市部での渋滞や地方部での鉄道バスの廃止など、「交通不全」が社会課題化しており、「この国の旧態依然とした交通をインターネットとAI(人工知能)で仕組みそのものからアップデートしていく」と抱負を述べた。

さらには、「タクシー配車アプリ戦争が、2019~2020年で起こる。我々は不退転の覚悟で臨む。十分勝てる」と意気込みを語った。

ライドシェアリングは日本には不向き?

配車サービスといえば、海外では2010年代中頃から、一般の人が所有するクルマを使った、いわゆる白タク行為によるライドシェアリングが爆発的に普及し始めた。

火付け役となったのは、アメリカのUber(ウーバー)とLyft (リフト)の2社だ。2010年代初頭のサービス開始期は、乗車に対して料金ではなく寄付金を支払うという形をとってきたが、利用者数が急増したことでアメリカ各地の州、郡、市などそれぞれの地方自治体が個別の判断で有料営業の許可をはじめ、現時点では一部地域を除いてアメリカ全土で利用できるようになった。

こうした動きは欧州や東南アジア、インド、そして中国へと波及。中国では滴滴(ディディ)が最大シェアを誇る。

ただし、世界各地でタクシー・ハイヤー事業者とライドシェアリング事業者との間で、各地の政府や地方自治体を交えた「ライドシェアリング合法化に対する議論」は続いており、ライドシェアリング導入を認めていない国や地域も多い。日本もそうした国の1つだ。

日本では、福祉活動、または中山間地域など公共交通の維持が困難な地域に限り、2006年の道路運送法の一部改正で生まれた自家用有償旅客運送制度という仕組みがある。これは、商用車向けの緑ナンバー車ではなく、乗用車向けの白ナンバー車を利用し、運転者も2種免許の所持が必要とされない。

ウーバーなどが、この自家用有償旅客運送制度を活用したサービスを地方部で実験的に行ったケースはあるが、継続的な事業化に結びつける計画は立っていない状況だ。

結局、日本では欧米や中国と比べて、タクシーサービスの質が高い。タクシー利用者の一部からは、「禁煙や分煙が当たり前の時代に、煙草のにおいが衣服に染みついた運転手と同じ空間にいるのが嫌だ」という声があるなど、タクシーに対する意見はさまざまある。だが、予約の時間を守らない、過度の速度超過、さらには車内での強盗といった悪質なタクシーがいまだに存在する国や地域では、配車アプリシステムでしっかり管理されているライドシェアリングがタクシーと比べて、安心で利便性が高くなる。

世界的に見て、タクシーサービスの質が高い日本。その中でタクシー配車サービスをめぐる競争がにわかに激しさを増している。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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