「テスラ・キラー」EVベンチャーが失速した真因 財政難、創業者退任、従業員大量リストラ続く

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最大の問題は、同社のFF91の最初の完成モデルがお披露目イベントで試験走行した後に、数時間で車から出火したことにある。バッテリーの過熱が原因とみられるが、これはフィスカー社も経験した問題で、生産を中止せざるを得なかった。

こうして考えると、大手自動車メーカーによるEVモデルはともかく、ベンチャーが「安全で信頼性のある」EVを一から立ち上げるのは非常に困難である、という図式が浮かび上がる。

イーロン・マスクCEOの言動や生産体制について何かと批判のあるテスラではあるが、短期間にモデルS、X、3と発表している。それなりに人々に評価され支持される車を作り出しているという点は、自動車業界の歴史の中でも非常に稀有な例といえる。EVはガソリン車に比べて構造が単純で部品も少ないため、最近では掃除機で有名なダイソンも参入を発表した。

EV競争で勝ち残ることの難しさ

しかし鳴り物入りで登場したはずのファラディの現状をみると、今後のEV競争を生き抜いていけるだけの車を作るということは決して簡単なことではない。

これらのEVベンチャーに共通しているのは、テスラと同様予約金を募って販売を行う、つまり予約金が運転資金などに充当されているという点だ。テスラを「予約金ビジネス」「自転車操業」と批判する声があるが、ベンチャーとしてこうした商行為は必要不可欠であり、ごく普通のことだ。

テスラモデル3に対して「予約金を取っているのに納車が遅れている」とする批判がある。同社の生産スケジュール発表が適切なものではなく「投資家や消費者に対する詐欺行為」にあたるとして、FBIが捜査に乗り出したという報道もある。これらEVベンチャーも今後予告期日に車を完成させ販売を始めなければ、同様の疑惑が起こることは必定だ。

土方 細秩子 ジャーナリスト

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ひじかた さちこ / Sachiko Hijikata

アメリカ在住のジャーナリスト。同志社大学卒、ボストン大学コミュニケーション学科修士課程修了。テレビ番組制作を経て1990年代からさまざまな雑誌に寄稿。得意分野は自動車関連だが、アメリカの社会、経済、政治、文化、スポーツ芸能など幅広くカバー。フランス滞在経験があり、欧州の社会、生活にも明るい。カーマニアで、大型バイクの免許も保有。愛車は1973年モデルのBMW2002。

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