テスラの苦境を読み解く「創世記」からの歴史 マスクCEO辞任とFBI捜査のダブルパンチ

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車両については、エバーハード氏の個人的な趣味で、英国ロータスの小型スポーツカー「エリーゼ」を選択した。ロータスとの交渉の末、車体は英国から、また車体の外装部品はフランスからアメリカに輸入することになった。

2000年代半ばから後半、エバーハード氏らテスラ創業メンバーは世界各国のメディアに頻繁に登場した。未来のクルマ・EVのベンチャー企業として大々的に取り上げられた。

量産計画は大幅遅れ

しかし、量産計画は大幅に遅れた。最大の理由は、電池パックの開発に時間を要したことだ。ロータス「エリーゼ」は車高が低いため、ACプロパルジョンがテスト車としていた小型ミニバンのトヨタ・サイオン「xB」のように電池パックを車体の床下に配置することが難しかったのだ。

大きな電池パックを搭載できうる唯一の場所が、運転席と従来のエンジンルームとの間にある、燃料タンクなど向けの縦長のスペースだった。ここに数千本の18650を詰め込んだ。具体的には、数百本単位でモジュールを作り、モジュールごとに温度などの管理を行う制御システムを取り付け、モジュール全体をひとつの電池パックとした。さらに、発熱を抑えるために電池パック周辺にオイルを流して冷却するシステムも搭載した。

こうした大量の18650をEV用として搭載することについて、自動車メーカーや自動車部品メーカー関係者らからは「走行距離が長いEVの量産向けとしては非効率的だ」と否定的なコメントが多く聞かれた。また、18650の基礎開発を行ったソニー関係者のひとりも「18650はEVでの利用を想定しておらず、EVでは別の形式のリチウムイオン二次電池を採用するべきだ」との見解を示した。だが、その後、パナソニックはテスラ向けにEV専用の18650を開発したことで、テスラによる18650電池パックの信頼性は一気に上がることになる。

電池パックの量産体制をなんとか整えたテスラだったが、バックオーダーをかかえる中で経営は逼迫し、エバーハード氏など創業時の役員が責任を取って辞任。その後、何度か社長が変わるが経営の立て直しは進まなかった。

そして2008年、アメリカのメディアは、テスラが連邦破産法第11条を申請する可能性があると報じるようになった。

その時点で、その後のテスラの大躍進を予想する者は誰もいなかった。

(後編に続く)

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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