日立製車両が架線切断、ロンドン鉄道大混乱 試験列車でトラブル、一体何が起きたのか?

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さて、具体的な状況を追ってみよう。事故はパディントン駅から15kmほど西のハンウェル(Hanwell)駅付近で16日夜10時頃発生した。ロンドンとブリストルとの間で試験運転を行っていた「クラス802」が、何らかの理由で架線を切ったことで電気系統に障害が起き、前後を走っていた列車が一斉に立ち往生する事態となった。

架線の修理については、しばらく時間がかかるとの判断から「翌17日の朝ラッシュ時には列車は走れない」と早々とアナウンスが出た。結局列車が走り出したのは17日昼過ぎのことだったが、終日ダイヤは乱れたままとなった。

現場付近は複々線で、普段は特急列車と各駅停車がそれぞれ別の線路を使って走っている。今回は程度が重篤だったこともあり、複々線の上下線(計4本)すべてを止めることになってしまった。

このルートにはGWRの列車のほか、ロンドン最大の空の玄関・ヒースロー空港と市内を結ぶ「ヒースローエクスプレス」も走っている。今回のトラブルで空港行きの足も遮断され、代行バスが急遽用意されたり、地下鉄で遠回りして向かうなど、旅行客にも大きな影響が出た。

事故直後から、日立と鉄道各線の設備・インフラを管理するネットワークレールは共同で原因調査に乗り出した。17日午後には日立側の声明として「このルートでは何年も前からテスト走行を成功させている。原因特定に向けて徹底的に綿密な調査をしたい」と述べている。

今後の導入に影響は

筆者が日立の関係者に18日朝(日本時間)に改めて原因を問い合わせたが、依然として調査中との回答だった。架線に問題があったのか,車両側に何らかの不具合があったのかも特定しておらず「詳しいことは現地の夜が明けたあと、改めて説明がある模様」(日立鉄道ユニット広報)としており、これから徐々にトラブルの全容がわかってくるだろう。

日立は、GWRとは別の鉄道会社が運行する東海岸線へも「クラス800」の納入を決めており、数カ月以内に「あずま(AZUMA)」の名で営業運転に入ることになっている。ただ、「今回のトラブルの結果如何で延期になるかも」(現地の鉄道アナリスト)という声も上がっており、予断を許さない状況となっている。

事故のあった10月16日は、IET車両の営業運転が始まってからちょうど1周年だった。昨年の運行開始初日は冷房からの水漏れが起こるなどの問題もあった。だが、その後は順調にGWRの各ルートを走っていただけに、今回のトラブルは本当に残念だ。早急な原因究明を望みたい。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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