甦る農業--企業が生産効率を持ち込む、製販一体で付加価値を創出
千葉県・富里市。ある畑で収穫されたニンジンが、シーズンの初出荷を待っていた。畑の名は「セブンファーム富里」。セブン&アイ・ホールディングス傘下、イトーヨーカ堂の直営農場だ。今年8月、富里市農業協同組合(JA富里)と共同出資で設立した(ヨーカ堂は10%出資)。収穫した野菜は、県内を中心とした5店舗で販売する。
約2ヘクタールの農場はセブンファームに個人で出資する津田博明氏が貸し出した。作物栽培は津田氏が担当し、ヨーカ堂の社員2名も常駐する。
社員の一人、久留原昌彦氏は「直営農場の強みは、店舗との情報共有」と話す。携帯端末を使い、収穫データを各店舗に送信。店頭から得た情報を基に、次の日の出荷本数や、店舗への割り振りを決定する。
収穫した野菜はヨーカ堂の物流網で配達、農場から近い成田店には直送もする。朝収穫したブロッコリーが同店の開店と同時に並んだときは、通常1日100個程度の販売量が400個へハネ上がった。
通常は廃棄処分となる「型くずれ品」も販売。成田店では表面に多少の凹凸がある大根が1本59円で売られていた。今後はコンビニや外食などグループ内での活用も計画する。
同社が野菜作りの「現場」に踏み込むのは、9割に上る野菜の国産比率をさらに高めることに加え、昨年12月の食品リサイクル法改正もきっかけだった。同改正では食品小売業のリサイクル率目標を2012年までに45%としたが、ヨーカ堂は現在30%前後。ヨーカ堂は、セブン‐イレブンの持つ期限切れ食品を飼料化するシステムを活用し、完全リサイクル網の構築を目指した。
実際に農家に堆肥を使ってもらうには「農業法人を立ち上げ、農家とリスクを分かち合う必要があると考えた」(セブンファームの戸井和久社長)。ヨーカ堂は販売面で協力関係にあったJA富里に打診。当初、JA内部には慎重論が多かったが、「今後は生産するだけでなく、売るための仕組み作りが必要」(仲野隆三常務理事)と協力を決断した。JAは跡継ぎに悩む津田氏をヨーカ堂に紹介し、法人設立にこぎ着けた。
セブンファームの初年度の売り上げ計画は3200万円にすぎない。だが、農場は来春倍の4ヘクタールに拡大、提携農家も増やす。ヨーカ堂は埼玉、神奈川でも農業参入を決定した。
トマトのハイテク菜園 情報を共有しカイゼン
1998年から生鮮トマト事業に参入したカゴメ。「こくみトマト」などブランドをつけたトマトを、全国の量販店で販売する。2007年度の売上高は66億円、金額ベースで家庭用トマト市場の3・6%のシェアを占めるまでになった。
現在カゴメは大規模菜園を8カ所運営する。いずれも温室内の温度・湿度、二酸化炭素濃度をコンピュータで制御する「ハイテク菜園」だ。
トマトは天然の岩石からつくられた専用の培地に植え、18種の肥料成分を溶かした養液を注入し栽培される。生物を利用した「生物農薬」を利用し、化学合成農薬の使用量を抑える。