甦る農業--企業が生産効率を持ち込む、製販一体で付加価値を創出
各菜園の生産情報はリアルタイムに把握され、1週間に一度、育成状況などをまとめた報告書が、相互にやり取りされる。ほかにもフランスの技師が2カ月に一度全国の菜園を回り、生産指導も行う。カゴメの生鮮事業を統括する佐野泰三常務執行役員は「これまで農家のノウハウは表に出ないことが多かった。カゴメではすべての菜園の情報を共有化できることが強み」と語る。
ただ同社の生鮮事業は、当初計画の6掛けペースにとどまる。最盛期の春と端境期の夏との収穫差が大きく、通年の安定供給が最大の課題だ。大規模菜園のため、一度病虫害が発生すると拡大しやすい側面もある。
それでも、微生物農薬の利用や養液に植物性ワクチンを加えるなどカイゼンを重ね、菜園の供給拡大にはメドがついた。この下期には全国の菜園を3エリアに分け、作ったトマトをエリア内で販売する「製販一体」体制を強化する。商品面では「高リコピントマト」など3種の全国販売も開始した。こうした取り組みにより、カゴメは09年度の黒字化を目指す。
標高差を使いレタスを1年中収穫
低価格イタリアンレストラン・サイゼリヤ。同社の関連会社である白河高原農場(福島県西白河郡)では約45ヘクタールでレタス2種類を露地栽培している。1日の収穫量は2~4トン。収穫後は4度に保たれた冷蔵車で神奈川県大和市にある工場に運び、翌日には店舗でサラダとして提供される。
外食産業はいつも野菜の仕入れに悩まされてきた。レタスの市場価格は夏場86円、冬場は229円と倍以上(今年1月~10月、大田市場)。市場では葉が厚く小さなレタスが主流だが、「ムダな部分が多く、2トン必要な場合に4トン買うこともあった」(加藤誠司・吉川工場長)。そこで大きく柔らかなレタスを店舗の需要に応じて供給する仕組みを作った。
白河高原農場には580~900メートルの標高差がある。レタスが旬の初夏と秋口には600メートルの高原麓、夏は山頂エリア、冬は農場からほど近い300メートル地帯のビニールハウスを利用して一年中収穫できるようにした。矢作光啓・白河高原農場・本部取締役は「今後は独自の品種開発も行う実験農場に育てていきたい」と意欲を示す。
食品メーカーから小売りまで。規制緩和を背景に、企業の農業参入は広がりを見せ始めた。だが、依然として課題も残る。農業生産法人への企業の出資には制限がある。リース方式で参入しようとしても、その対象は一部の農地に限られる。
農地が細分化し、複雑な権利関係も障害となる。カゴメが出資する福島の菜園では、地権者が118名にも及び、合意形成に時間がかかった。
それでも企業側には、川上から川下まで一気通貫した仕組みが付加価値を生むとの読みがある。企業参入が、農業の生産性を高めるきっかけとなることは間違いなさそうだ。
(週刊東洋経済)
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