アウディ新型A8上陸でも「自動運転」実現せず 技術が先行、国際合意難航で法整備置き去り

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自動車の自動運転の技術レベルは、アメリカ運輸省の定義を踏まえ、5段階の基準で示すのが一般的だ。システムが果たす役割の程度に応じて分けられ、レベル1~2では人間がハンドルを握り、システムがハンドル操作や加減速を支援する。レベル3以降は運転主体がシステムに移り、一般的にイメージされる「自動運転」の段階に入る。

新型「A8」はナンバープレート下部にLiDARを搭載し、車両前方の監視機能を担う(撮影:梅谷秀司)

アウディは昨年7月、新型A8をスペインで発表した際、中央分離帯のある自動車専用道路の同一車線を時速60キロメートル以下で走行する場合にレベル3の自動運転を可能としていた。レベル3ではシステムが運転を行うが、作動困難な場合は運転者が対応するという水準。

ただ、法制度が未整備のため、新型A8の市販車では人による運転操作を前提に一部を自動化するレベル2に機能は抑えられ、自動運転ボタンもない。ノアック社長は「法的な問題で、レベル3機能を導入できた国はまだない。法整備を待っている状態だ」とこぼす。

日本の道路交通法では運転者の関与を前提としており、ハンドルから手を離してシステムに運転を任せた時点で違法となる。「車両の運転者は当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作しなければならない」と明示されているからだ。道交法の根拠は1949年に締結され、日本も批准するジュネーブ道路交通条約で、そこには「車両には運転者がいなければいけない」との規定がある。現行の法制度のままでは、自動運転の実現にあたっても車両が運転者の制御下にあることが条件になっているのだ。

法改正したドイツでも「レベル3」は実現せず

アウディの本拠地ドイツでは昨年6月、世界各国に先んじて、レベル3相当の自動運転を認める改正道交法を施行した。自動運転中に運転手はいつでも運転を交われる態勢を維持する必要があるが、電話など一定の運転以外の行為(セカンドタスク)は許されるという。

ドイツが批准しているのはジュネーブ条約を発展させたウィーン道路交通条約(日本は非加盟)。欧州を中心に約80カ国が批准する同条約は2016年、レベル3相当の自動運転を認める内容の改正にこぎつけた。ドイツはそれを根拠に、道交法改正に踏み切った。

にもかかわらず、新型A8はドイツ国内でレベル3の自動運転を実現できていない。安全性能や環境性能を担保する「型式認証」制度の基準が未整備なため、レベル3の自動運転車として販売することはできないのだ。自動運転技術の開発で先頭集団にいるドイツでさえも法律の壁に阻まれていることになる。

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