「カメラを止めるな!」盗作騒動の法的な論点 大ヒット映画にかけられた著作権侵害疑惑

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一連の報道によれば、上田監督も『GHOST IN THE BOX!』を実際に劇場に足を運んで見に来ていたということですし、また上田監督自身が「PEACE」の劇団員に対して、「『GHOST IN THE BOX!』の映画版をやりたい」と伝えていたと報じられています。何より、上田監督がインタビューで「2013年に観た、とある劇団のある芝居に影響を受けて」と答えているとのこと。

上田監督が『GHOST IN THE BOX!』に依拠して『カメラを止めるな!』を制作したことについては、両当事者間に争いはないといってよいでしょう。

それでは、実際に著作権侵害は成立するのか。(2)の表現上の特徴の同一性を直接感得できるがポイントとなります。

類似点は確かにいくつかあるが…

ネタバレになるのであまり詳しく記せませんが、指摘されている類似点の多くは、作品のストーリーや設定と評価できるものです。他方で、本作品を象徴するような「カメラは止めない!」といったようなセリフにおいても類似する点が挙げられています。しかし、その数は決して多くはありません。裏を返せば、それ以外の登場人物のセリフやエピソード、描写などは異なっているということですから、侵害が成立する可能性は低いと言えるでしょう。

過去の類似案件として、大河ドラマ『武蔵MUSASHI』の初回放送分ストーリーが、黒澤明監督の『七人の侍』の脚本に類似しているとして訴訟で争われたケースがあります。このときもストーリーの大筋に一致はみられるものの、それらはアイデアに過ぎず、その結末や人物の描写に違いがあるとして、翻案権の侵害は否定されています。

なお、(3)に示すとおり、新たな創作物が作られることが翻案の要件ですが、これを満たさない場合は、単なる複製(コピー)となります。

いずれにしても、本件において著作権侵害が成立するかどうかは、実際に両作品を詳細に比較検討したうえで判断する必要があり、現時点ではっきりとしたことをいうのは難しいといえるでしょう。

次ページストーリーそのものは法律で保護されなくても・・・
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