東京の「満員電車ゼロ」は複々線化でも困難だ 通勤輸送対策に携わった鉄道会社OBが語る

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――信号システムの改良で、複線のままでも現在は1時間当たり30本程度が上限の列車本数をさらに増やせるとの声もありますが、難しいのでしょうか。

それは運転速度との関係です。速度を下げて、それこそ路面電車の続行運転のように目視運転で走らせれば40本くらいは入りますよ。速度が低ければ制動距離は短いので、それだけ列車の間隔を詰められるわけです。その代わり所要時間は伸びてしまいますね。

今の速度を維持するなら、私はせいぜい1割程度増やすのが限界だと思います。もっと増やせるという意見もありますが、もし駆け込み乗車などで1本でも少し遅れが出たら、その後の列車に全部影響します。ダイヤ作成者はそのための余裕を見込みますから、それを考えるとあんまり増やせないんじゃないかと思います。

「満員電車ゼロ」はそもそも無理だ

――しかし、複々線化には莫大な費用と時間がかかりますね。小田急線の複々線化も構想から約50年かかりました。

鉄道側からいえば、線増は投資額が非常に大きいので、それこそ会社の経営を揺るがしかねない大事業です。たとえば線増分は国が建設費を負担して資産管理は都が行い、それを私鉄が使用料を払って運転管理を行う……といった形などがなければ、鉄道会社はなかなか積極的に乗り出せないでしょう。

費用の面だけでなく、利用者が多いといってもたとえば中央線の線増はなかなか難しいでしょう。今の線路の地下に新しい線路を造るという意見もありますが、現在の線路上に列車を走らせながらその直下で工事をするのは大変です。かといって、地下深いところをシールド工法で掘削すれば建設費はさらに増えます。

――すると「満員電車解消」は困難なのでしょうか。

「満員電車をなくす」というのは、そもそも無理だと思います。線増で混雑緩和はできますが、混雑率100%の定員輸送ができるかというと、ほとんどの路線は複々線以上に線路が必要です。小田急線の場合で試しに計算してみたら、現在の複々線に加えて2線(計6線)ないと無理です。さらに、もしも朝の通勤時間帯に全員座っていけるようにしようと思えば、片側で5線必要です。これはとても実際にはできないことです。

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