プリウス人気が米国でも落ちてしまった事情 売れすぎと法規変更で販売が低落傾向

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この動きに対してはトヨタも3代目プリウスの途中からプラグインハイブリッド(PHV)バージョンを2012年から日米で投入した。ただ、ベース車の1.3kWh容量のニッケル水素バッテリーに対して4.4kWhのリチウムイオン電池の搭載などによるコスト高から販売価格が大幅に上がり、その割に概観はベース車と変わらないことなどで、アメリカでもプリウスのPHV販売は1万台がやっとだった。

プリウスがあまりにも売れまくり、タクシーやレンタカーに大量に卸したのに加えて、各種の法規上、エコカーからハイブリッド車が除外されたことが複合的に絡みあい、プリウスのクールなイメージはかつてほどではなくなってしまった。

EVの雄、テスラ「モデルS」

並行して登場したのがEVの雄、2012年発売のテスラ「モデルS」だ。完全なEVでありながら、上級仕様では100kWhもの大容量バッテリーの恩恵で500kmに及ぶ巡航距離があり、強力なモーターにものを言わせてスポーツカー並みの加速力があり、ジャガー風の流麗なスタイリングを誇る。これがかつてプリウスの占めていたイメージリーダーカーのポジションを奪ってしまい、以前プリウスに乗っていたグリーン派のハリウッドスターもこぞってテスラに乗るようになった。

トヨタ自身もそこは気になったのか、2010年にトヨタはテスラに出資をしたほどだ。そのテスラも拡大路線を突っ走り、昨年にはバックオーダー40万台を抱えながら、廉価モデルのモデル3を発売。しかし、生産が軌道にのらず、資金繰りが悪化しているという。6月12日には従業員の9%にあたる約4100人を解雇すると発表している。

プリウスも失速しているが、テスラも安泰ではない。グリーンカーの盟主の位置は、今後誰が担っていくのかまったく予測できない。とはいえ、かつては「技術の日産」と対で「販売のトヨタ」と言われ、あまり技術力で突出した印象のなかったトヨタが、一気にエコイメージ、先端技術のイメージを手に入れたのは、紛れもなくプリウスの功績だ。初代モデルのチーフエンジニアだった内山田竹志氏が2012年にはトヨタの会長にまで上り詰めたことがそれを立証している。

トヨタにとっては、これからもプリウスをエコカーの代名詞として育てていく、あるいは、プリウスに代わるイメージリーダーを作っていくことは課題の1つだろう。やがてトヨタもEVにシフトしていくのか。次の半世紀を睨み、今が正念場かもしれない。

森山 一雄 自動車ライター

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もりやま かずお / Kazuo Moriyama

海外事情通の自動車業界ライター。

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