100年後も残る輝きを届ける宝飾界のプリンス 新世代リーダー 梶 武史 ジュエリーデザイナー
「スタジオが自宅に併設されているため、たくさんの美しい宝石や美術品に囲まれて育ちました。仕事熱心な父は、ひとたびデザインのアイデアを思いつけば、たとえ食卓に座っていたとしても、すぐにその場で石を並べ始めてしまうんです。
そして、一緒に街を歩けば、建築からレストランの皿までを論じるほど、美意識の高い人でもあります。アンティークのコレクターとしても有名な父に連れられ、初めて海外の骨董市を訪れたのは中学生の時のこと。思い返せば、審美眼と創造性を養うという意味において、とても恵まれた環境で育ったと感謝しています」。
時の流れに淘汰されることのない「真実の美」を肌で感じながら、すくすくと感受性を伸ばし、センスに磨きをかけた武史氏。そんな彼が、ごく自然の流れのなかで「ジュエリー業界で生きる」と決意したのは、2000年だ。父と同じく、米国宝石学会(G.I.A)にて宝石学鑑定資格「グラデュエイトジェモロジスト」を取得した21歳のときのことである。
裸石の買い付けから、勝負は始まる
父の会社の一員として、本格的にジュエリービジネスの世界に飛び込んだ武史氏は、石の買い付け、企画、販売など、ジュエリーが顧客の手に届くまでのすべてのプロセスを積極的に経験しながら、デザインの研鑽を積んでいった。ジュエリーに関わるさまざまな種類の業務をすべて担当するという姿勢は、一人前のデザイナーとして認められた今もなお、変わることはない。
「デザイナーにとっては、販売もまた、非常に大切な仕事なんです。自分が作ったジュエリーをお客様がお召しになる。その姿を見るときの喜びは何物にも代えがたいものです」。
多岐にわたる業務のなかで、「最後のステップ」である販売と対を成す「最初の第一歩」が、「ルース」と呼ばれる裸石の買い付けだ。通常は、香港やアリゾナをはじめとする海外の大きな見本市に出向き、「目利き」しながら選んでいくことが多い。色、カット、照り、傷、内包物の有無――。値札のついていない小さな石たちをピンセットでつまみ、専門のルーペを使ってあらゆる角度から眺め、見つめ、価値を見極めていく。それは、まさに、売り手と買い手の真剣勝負に他ならない。
「緊張のあまり手が震えて、石を落としてしまったこともあります。買い付けというのは、とにかく経験値をあげることが重要なんです。資格をとったからといって、一朝一夕に見る目が身につくものではありませんから。僕は、幼い頃から良い石をたくさん見せてもらっていましたし、宝石商である祖父から買い付けの極意である駆け引きの大切さも教わっていました。とても幸運なスタートだったと思います。ありがたいことです」。
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