カーブを速く走れる「列車」の知られざる進化 特急から新幹線まで振り子と車体傾斜の発展

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その圧縮空気は使った分はすぐに補充しなければならない。大容量のコンプレッサーを各車両に搭載して必要な空気量を補う必要がある。連続使用の耐久性はどうなのだろうか。

架線電力でいくらでもコンプレッサーを回せる電車は有利だが、走行用エンジンでコンプレッサーを回すディーゼルカーの圧縮空気確保は容易ではない、アイドリング程度の低い回転では圧縮空気が十分に作れない。そのためにエンジンを空吹かしするのは自動車用エアコンのアイドルアップに似ている。

特急用ディーゼルカーキハ261系(写真:Kobayashi / PIXTA)

「空気ばね車体傾斜」の始祖はJR北海道のキハ201系通勤用ディーゼルカーであり、この技術を利用して作られた特急用ディーゼルカーキハ261系がある。宗谷線への投入以降はなぜかコンプレッサー能力を低下させて各線区への投入が続いている。

近年JR四国が相次いで新型「空気ばね車体傾斜」車両を投入した。電化された予讃線は従来の「制御振り子」から空気ばね車体傾斜に切り替えられ、他の非電化線区用のディーゼルカーも同様に「空気ばね車体傾斜」が導入されることとなった。

線区により間に合う条件は分かれる

ところが急峻な山間部で曲線の連続である土讃線(多度津―窪川間)での使用には問題があり、直線区間が多い高徳線(高松―徳島間)で使うとの発表があった。土讃線用の次世代特急車には再び「振り子」車両を投入するという。ディーゼルカーでは車体傾斜用の圧縮空気が不足ぎみであるのか。線区により「振り子」が適する線と「空気ばね車体傾斜」でも間に合う条件に分かれるという解釈が正しいのかもしれない。

E351系特急スーパーあずさ(写真:F4UZR / PIXTA)

先に「スーパーあずさ」の置き換えが完了した中央東線でも、鉄車体で屋根上機器もある重厚なE351系「制御振り子」からE353系「空気ばね車体傾斜」へのシステムチェンジを果たした。直線イメージの中央線は関東平野や甲府盆地以外はほとんど曲線線形なのだが、電車という恵まれた条件ゆえ「空気ばね車体傾斜」で十分との理解だろうか。

仕様では編成中1両を除いてコンプレッサーを搭載する重装備だが、音は静かになってもコンプレッサーは回転機器で性能劣化もするし保守も厄介だ。車体傾斜機器不調の徐行遅延などを都心部に持ち込まないことを願うばかりだ。

「かいじ」系のE257系もE353系で統一の予定といわれている。形式統一でダイヤ乱れ時の車両運用が楽になるだけでなく、車体傾斜によるかいじの速達化も実現できれば理想的かもしれない。

高価で保守も面倒な「振り子」だが、傾斜角を大きくしすぎて車内居住性が悪化しない範囲で用いれば、その安全性と安定性において「空気ばね車体傾斜式」よりも大きなメリットもある。採算性を考慮すればシステムを簡略、統一化することも重要だが、安全定性を考慮すれば、線区要件に最適でマッチした方式の見極めが鉄道技術者には必要となろう。

前橋 栄一 東京交通短期大学講師

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まえばし えいいち / Eiichi Maebashi

鉄道総合技術研究所を経て現職。技術士(機械部門)。博物館学芸員。上級デジタルアーキビスト。

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