東海道新幹線の技術を生む「秘密基地」に潜入 リニア開業後走る「未来の新幹線」も開発中?

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国鉄の分割民営化に伴い、本社の技術開発部門や研究所などの業務を統合して発足した鉄道総研が、JR各社の新幹線の技術開発を一手に担うことになった。ところが、民営化された途端、JR各社は堰を切ったように自社で新幹線の技術開発に動き出した。速度向上や利便性拡大がその狙いだ。

基礎的な技術開発は各社共通でも、輸送人員から沿線の環境まで新幹線を走らせるための諸条件は各社でまったく違う。そのため、騒音対策や安全技術といった実用的な技術開発では各社が独自のアプローチを取ることになる。JR東海は小牧に自社の研究施設を設立することを決断。JR東日本も2001年に研究開発センターを設立し、新幹線や首都圏鉄道システムなどの研究開発を進めている。

鉄道総研とJR各社との交流が活発に

JR東海とJR東日本が相次いで独自の研究施設に踏み切った状況を受け、「鉄道総研の役割は半分にくらいに減ってしまうのではないかと危惧した」と、鉄道総研の熊谷則道理事長は当時を振り返る。ただ、実際にJR東海やJR東日本の研究施設が開設すると、鉄道総研とJR各社との間で、基礎技術の研究者どうしの交流が進み、むしろ「相乗効果が出た」(熊谷理事長)という。鉄道総研の懸念は杞憂に終わったわけだ。

鉄道総研が開発中の架線・バッテリー・ハイブリッド電車。減速時に回生ブレーキにより生み出された電気エネルギーを車載バッテリーに充電することで、省エネにつなげる(撮影:吉野純治)

最近の新幹線関連の研究開発では、速度向上時の騒音対策を始め、九州新幹線の回送列車が脱線した2016年の熊本地震に際し、脱線メカニズムの解明といった研究を行っている。リニアモーターカーについては、東京-大阪間における実用化はJR東海が行い、鉄道総研は次世代のリニアに向けた超電導コイルの開発や、リニアで培った先端技術の在来線への小用展開といった研究を進めている。

速度や安全など性能が高まった新型の新幹線車両に注目が集まりがちだが、その裏で、多くの研究者が技術開発にしのぎを削っている。今この瞬間も10年先を見据えた技術開発が行われているのだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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