「マツダ地獄」を天国に転じさせた戦略の要諦 ダメだと思ったやり方を変え、思い切った

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第6世代の統一デザインによってアピールするべきクルマが路上で見かけると傷だらけではイメージダウンも甚だしい。そういうイメージダウンは査定にも響く。だからつねにベストの状態を維持できるための保険を用意したのだ。

この辺りの説明をマツダに聞くと「お客様の大切な資産を守る」と言う。それは嘘ではないが、ブランドイメージ再構築を推進するマツダにとっても極めて重要なことなのだ。

ちなみにこの残価設定ローンで、3年ごとに乗り換え、7年経過後。つまり3台目に乗って1年経過時のコストは、新車を現金で購入して7年乗った場合と変わらないとマツダは試算している。まさかその試算に嘘はないと思うので、ユーザーの負担コストは変わらずに、マツダは2回も買い替えてもらえて、ユーザーは3年ごとに新車に乗り換えられることになる。

あわせて、販売店のCI(コーポレート・アイデンティティ)を一気にリニューアルした。マツダ地獄のイメージを払拭して、生まれ変わったマツダのイメージを訴求しなくてはならない。ユーザーのタッチポイントになるディーラーのブランドイメージ向上は戦略としてとても重要だ。

販売台数28%アップ

さて、この戦略は実際うまくいったのだろうか? それは国内で第6世代のスタートを切った先代「CX-5」から現行「CX-5」への乗り換えを見てみるとよくわかる。

マツダの新CI。ユーザーへのタッチポイントは重要だ(写真:マツダ提供)

2017年2月2日に発売された2代目CX-5は発売1カ月で1万6639台を受注した。目標の7倍だ。問題は内訳である。実はこの1万6639台のうち、初代CX-5からの乗り換えは39%に達している。初代のデビューからカウントして5年なので、マツダが狙ってきた短期乗り換えが発生していることは明らかだ。

CX-5からのみならず、マツダ車からの乗り換えは66%。比較対象として初代CX-5のとき、マツダ車からの乗り換えは41%だった。つまりマツダからマツダへ。しかも高年式車からの乗り換えが増えている。マツダ地獄時代と最も違うのは、下取り査定額の高さだ。具体的には各車のコンディションによるので水平比較はできないが、マツダの調べでは、安全装備が付いた上位グレード、Lパッケージとプロアクティブが受注の95%を占めていることから見て、購入資金に苦労している様子が見受けられない。

「下取りが予想外に高くて喜んでいらっしゃるお客さまが多いです。その結果、上位グレードが売れているのではないかと思っています。マツダ地獄じゃなくてマツダ天国になったのかなと……」と自慢を抑えながらマツダの広報部員は話す。

秩序の整ったショールームもブランド価値の向上には不可欠な要素だ(写真:マツダ提供)

筆者は、マツダが時折口にする「ブランド価値の向上」という言葉を聞いて「ありがちな掛け声」だと思っていた。ハイファッション・ブランドの人たちが好んで口にする流行の言葉。それはどこか机上論のにおいがする。

しかし、こうやってバブル以降のマツダの取り組みを追ってみると、マツダの「ブランド価値向上」は血反吐を吐くような覚悟があったことがわかる。それは余命宣告された人が万感の思いを込めて言う「健康は大事だよ」と同じく、本気も本気、掛け値なしの言葉だったのである。

さて、マツダは2018年3月期の決算見通しでグローバル販売台数を160万台としている。2012年の実績が125万台なのでこの間に28%増えた計算になる。第6世代戦略が成功か失敗かはこの数字がすべて語っている。

池田 直渡 グラニテ代表

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いけだ なおと / Naoto Ikeda

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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