「マツダ地獄」を天国に転じさせた戦略の要諦

ダメだと思ったやり方を変え、思い切った

仮に新車で50万円値引きしているとしよう。もしこれが値引きなしで売れたとしたら、戦略的にその販促費を中古車の下取りに上乗せすることもできる。すると中古車の値崩れが止まり、相場が上がった分の下取り額が上がる。こうやってメーカーが自社商品を買い支えれば乗り換えユーザーは新車に買い替えるときの原資が増える。それは縮小均衡から拡大均衡への変換だ。

ひとつ前のカペラの時代から新技術は着々と投入されていた。圧力波過給を実現したプレッシャーウェーブスーパーチャージャーや、4輪操舵など、ユニークな技術は数多い(写真:マツダ提供)

あるいは、これまで、下取りが安いため買い替えを躊躇し、乗り換えを先送りにした結果、査定額がゼロになるまで乗り潰してしまったオーナーが、途中で買い替えることが可能になる。

もちろん例外はあるが、新車のうちは大事にしていたクルマも年数が経つにつれて扱いが粗雑になる。長く乗っていればだんだんワクワク感が下がる。一般論で言って、ユーザーにとっても乗り潰す以前に買い替えたほうが生活の質が向上するはずである。もちろんマツダにとっても、中古車として再商品化できるクルマが入ってくればビジネスの旨みがある。何より新車が売れるし、値引きでプライドが傷つかない。

価値あるクルマになるために

さて理屈は理屈ながら、いったいどうすれば値引きをしないで売れるのかだ。メーカーがディーラーに値引きの禁止を押し付けたら独占禁止法違反でアウトだ。

もっとマーケットメカニズムを変える形で値引きしない仕組みを作らなくてはならない。その第一歩はクルマの価値を認めてもらうことだ。「別にこれじゃなくてもいい」というユーザーに買ってもらうためには、値引きしかないが「これじゃないとダメだ」というユーザーなら値引き交渉は要らない。あるいは他社と競合していても「本当はこれが欲しい」というユーザーなら交渉のしようがある。

マツダにはそういうクルマがあった。「ロードスター」である。ロードスターは「別にこれじゃなくてもいい」というユーザーが買うクルマではなく「これが欲しい」ユーザーが買うクルマだ。蛇足ではあるが、このロードスターがもとをたどれば5チャネル化の申し子であったことは興味深い。

さてオープン2シーターという特徴的な商品で達成できているそういう売り方を全マツダ車に敷衍するにはいったいどうしたらいいのか?

マツダはフォード・グループ離脱からの8車種構想に際して、8車種を統一して、走りとスタイルに個性を持たせることにした。手本とすべきロードスターは嗜好品であり、故に誰もが欲しがるクルマではない。欲しい人だけが欲しいクルマだ。だからそれを見習って、8車種を誰にでも好かれるクルマにすることを諦めた。

「2%の人に好かれるクルマ」。思い切った戦略だが、そもそもトヨタや日産と張り合って、誰にでも好かれるクルマを作ろうとしてダメだったことはすでに実証済みである。

ダメだとわかったやり方を改める。そういう極めて当たり前のアプローチでもある。現在グローバルな新車販売の総数は年間約1億台。2%なら200万台に当たる。対して、第3四半期決算で発表された2018年3月期の販売見通しは160万台。つまり2%で我慢ではなく、現在のマツダの実力で見れば、2%は十分以上にチャレンジングな目標である。

次ページできないことは割り切って捨てた
自動車最前線の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 自衛隊員も学ぶ!メンタルチューニング
  • 日本野球の今そこにある危機
  • 森口将之の自動車デザイン考
  • 最新の週刊東洋経済
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
-

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

ログインしてコメントを書く(400文字以内)
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
スクープ! 積水ハウス地面師事件<br>「封印された報告書」の全貌

「なぜ積水はだまされたのか」。2年前の地面師グループによる大型詐欺事件。謎を解く同社の内部資料を本誌が独自に入手した。だまされた積水が調査報告書の公開を拒む理由は。取引を承認した役員が現在も要職にある“闇”をいま明かす。