(第3回)何のために新規事業を起こすのか?

拡大
縮小

 では、企業において新規事業を立ち上げるときの「目的」とはどのようなものがあるにおでしょうか。下記にいくつかその代表的なものをご紹介しましょう。御社の場合はどのような「目的」が規定されていますか。

(1)本業の重心移動
 いずれ本業の重心を移動することを想定し、新しいビジネスを起こす。ラジオメーカーがテレビ製造に乗り出したり、オートバイメーカーが自動車会社になったりするのがいい例。
(2)本業の周辺を強化する
 コンピュータメーカーが、コンピュータの売上げ促進につなげるためソフトウェア会社を作ったり、本業の利益率が低いのをカバーするために、利幅の大きい周辺機器製造に乗り出すようなケース。
(3)未来を担うビジネスにシフトする
 大型コンピュータを作っている会社が、コンピュータのダウンサイジングやパソコンの普及を見越して、パソコン事業をはじめるというのがまさにそう。本業の重心移動に近いが、こちらのほうは将来、本業に近いところで本業を凌ぐ規模のビジネスが起こることを予想し、早めに布石を打っておくという意味合いが強い。
(4)他社をキャッチアップする
 A自動車メーカーは系列に変速機の専門メーカーを持っているが、B自動車グループにはない。そこで、B自動車では、A自動車メーカーグループから変速機を購入しつつ、いずれA自動車をキャッチアップすることを目指し、自社グループ内にも変速機メーカーを立ち上げるというようなケース。
(5)衰退しつつある本業を補う
 すでに紹介した、デジタルカメラの台頭によって銀塩フィルムという本業の縮小を余儀なくされた富士フイルムが、自らもデジタルカメラを作る事業をはじめたのはこの典型。
(6)自社の付加価値を増すため
 自動車メーカーがエアコンやカーナビゲーションの会社を作って、それらの製品を自社製の車に装着すれば、その分、車の付加価値が上がる。あるいは自動車メーカー自ら、中古市場に乗り出すなど。
(7)新しい事業の種を発見する
 もともと軍用の双眼鏡や潜水艦の潜望鏡を作っていたニコンの現在の主力商品はステッパーという半導体を焼く装置。キヤノンも今はプリンターやオフィス機器メーカーだが、従来のメイン商品はカメラ。いずれもいくつかのニュービジネスにトライすることで、今の事業に行き着いた。
(8)本体企業の事情
 社員のモチベーションアップ、話題づくり、社内の停滞感の打破などのために新規事業をはじめるケースもある。ただし、効果のほどは疑問。また、新規事業の名を借りたリストラの場合もある。
※これらは代表的なものであり、網羅的なものではありません。また、上記の複数の目的が規定される場合もあります。
 繰り返しますが、新規事業を立ち上げる前に、その目的を明確にし、かかわる人全員で十分に共有してもらいたいと思います。
新規事業がうまくいかない理由
~「プロ」が教える成功法則~
坂本 桂一 著
場当たりが先行しがちで前に進まない新規事業。失敗率は9割以上とも言われる。成功のために何をすべきなのか。200社以上の事業に生命を吹き込んだ「プロ」のノウハウを大公開。

坂本桂一(さかもと・けいいち)
(株)フロイデ会長。事業開発プロフェッショナル。山形大学客員教授。
専門は新規事業創出、ビジネスモデル構築、M&A。1957年京都市生まれ。
東京大学入学後、在学中にソフト制作会社�サムシンググッドを設立する。以後も(株)ソフトウィング、アルファシステム(株)、アドビシステムズ(株)(当時社名アルダス(株))、(株)ウェブマネーなどを設立し代表、会長に就任。うち数社を年商数百億ビジネスに育て上げる(以上すべて現在は退任)。日本のITビジネスの黎明期より、その牽引役として活躍。ソニーSMC70、シャープX68000、WINDOWS3.0J、プレイステーション等の開発にのスタンダードとして成功を収める。
現在、これまでの実業家経験を生かし、ハンズオン型のコンサルティング活動を行っている。
著書に、『頭のいい人が儲からない理由』(講談社、2007年)、『新規事業がうまくいかない理由』(東洋経済新報社、2008年)がある。

(株)フロイデ http://www.freude.bz/
新規事業開発から既存事業の成長戦略立案まで、総合的、創造的なコンサルティングを実施。特色は「事業立ち上げ経験者」を中心としたビジネスパートナーネットワークによる新規事業立ち上げ、経営改善のハンズオン型サポート。特に成熟ビジネスにおける「新しい付加価値」創造において、多くの実績を保有する。
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