ブルドックが防衛策を発動 市場は大混乱に

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ブルドックが防衛策を発動 市場は大混乱に

米系投資ファンドの脅威にさらされたブルドックソースが国内初となる買収防衛策の発動に踏み切った。が、複雑な内容や、司法判断との絡みで、株式市場は大混乱に陥った。(『週刊東洋経済』7月21日号より)

 「いったいどういうロジックで買っているのか。思惑というより、錯誤だ」。7月5日木曜日、ブルドックソース株が売買される様子を注視していたある中堅証券幹部はあきれた。この日、ブルドック株は前代未聞の乱高下を見せた。始値は500円。それが見る間に上昇、午後2時46分にはその日最高値となる1370円をつけた。実に3倍近い変動だ。

 ところが、翌日から様相は一変。売り注文が相次ぎ、ストップ安となり、2営業日連続で取引が成立しなかったのだ。その後も株価はほぼ制限値幅いっぱいまで下落を続けた。株式市場の大混乱は買収防衛策に端を発したものだ。

 スティール・パートナーズが株式公開買い付け(TOB)を仕掛けてから約2カ月。ブルドックは11日、買収防衛策に基づく新株予約権の効力が発生したと宣言した。防衛策を導入する企業は数多くあるが、実施は国内初だ。が、その中身は複雑。全株主に1株当たり3株分の新株予約権を無償で割り当て、これに普通株を付与する。ただし、スティールには普通株を割り当てず、現金23億円で新株予約権を買い取るのである。

東証は正しかったか?

 5日の乱高下は、その複雑な仕組みに起因した。新株予約権の割り当てを受けられる権利付き最終日は7月4日。問題は明くる5日の権利落ち日の基準値段(値幅決定時の中心価格)と制限値幅(その日認められる価格帯)をどのように設定するかだ。

 通常、株式分割で発行株数が4倍に増える場合、前日終値を4で割った金額を、権利落ち日の基準値段に設定する。今回の新株予約権は強制的かつ一斉に普通株へ変わるので実質的には株式分割だ。

 しかし、スティール分だけはブルドックが現金で買い取る。厳密には株式数は4倍にはならない。当初、東京証券取引所は4分割時と同じ基準値段を検討した。しかし、議論は曲折。「防衛策発動で現金23億円が流出する。これは時価総額にもかかわるので、単純に割った理論価格でいいのかとなった」(東証広報部)。

 そこで、理論的な算出は断念、4日の終値(1479円)をそのまま基準値段にした。これに通常の制限値幅を上乗せして上限値は1679円。が、下限値だけは、4分割した金額から制限値幅を差し引いた290円とした。通常ではありえない値幅である。

 事態がさらに複雑だったのは、司法判断との絡みもあったためだ。裁判所がスティールによる防衛策差し止めの仮処分申請を認めると、元の株価に戻る可能性もあった。「発動・不発動の判断を含めて、投資できる値幅に設定した」と東証は説明する。が、特異な設定に証券関係者からは「制限値幅の意味がわからない」との声も漏れる。

 結果、起きたのは異常に歪んだ価格形成。一般投資家がどれだけ事態を正確に理解していたかは疑問だ。9日にスティールの抗告が棄却されてからは、売りの優勢は強まった。理論値(370円)へのサヤ寄せが進んでいるものとみられる。ただし、なおもスティールは最高裁に抗告。1700円のTOB価格もまだ生きている。思惑が生じる環境は依然続いている。

 当初、ブルドックは発行した予約権を買い取る取締役会決議を11日に行う腹積もりだった。しかし、前例のない買い取り措置を税制でどう扱うか、当局から確認が取れず、取締役会は開けずじまい。税務当局は慎重に事の成り行きを見極めているようだ。

 このため株式交付のメドは立っていない。新株発行の遅れは市場で需給の逼迫要因となる。過去に大幅分割に伴い株価の乱高下が起きたことは記憶に新しい。それと同じマネーゲームがブルドック株でも起きかねない情勢だ。

(書き手:井下健悟 撮影:尾形文繁)

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