青函トンネル30年、新幹線が直面する大矛盾 海面下240mで最高難易度の保守作業が続く

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青函トンネル区間の保守費用をめぐっては、JR北海道にとってもう1つ悩ましい問題がある。それはJR貨物(日本貨物鉄道)がJR北海道に支払う線路使用料の問題である。

JR貨物は全国の鉄道会社の線路上に貨物列車を走らせているため、鉄道各社に線路使用料を支払っている。JR各社に支払う使用料は最小限に抑えられ、保守作業に伴う人件費や設備投資は対象外だ。

青函トンネルでは貨物列車も走る(記者撮影)

北海道新幹線開業以降、青函トンネル区間の在来線は基本的にはJR貨物の列車しか走らない。にもかかわらず、在来線区間用分岐器のように、実質的に貨物列車にしか使われない設備の保守費用もJR北海道持ちだ。JR北海道の島田修社長は「当社が使わない設備の維持管理費まで当社が負担するのはおかしい。さすがに『これは払ってください』と申し上げている」と発言している。

スピードを出せない北海道新幹線

東北新幹線では最高時速320kmで疾走するE5系だが、青函トンネル区間では時速140kmまでしか出せない。高速走行する新幹線とすれ違う際の風圧で貨車が吹き飛ばされたり、脱線したりする可能性があるためとはいえ、新幹線規格の線路上で新幹線が本来の力を発揮できないというのは大いなる矛盾だ。

風圧を防ぐための防風壁の設置費用は1600億円と試算された。北海道新幹線・新青森―新函館北斗間の工事費5783億円を負担する国と自治体に追加負担の余裕はなかった。結局、青函トンネル区間では新幹線が速度を落として走行し、すれ違い時の風圧を最小限に抑えるということで決着した。安全性は確保されたが、所要時間は大幅に増えた。東京―新函館北斗間の最短所要時間は4時間2分。航空機から新幹線へ利用者をシフトさせる“4時間の壁”を破れないでいる。これが青函トンネルの泣きどころだ。

現在、国交省は北海道新幹線のスピードアップに向けて検討を重ねている。国交省としては、2019年春にもダイヤ改正に合わせて時速160kmへ引き上げたい考えだ。また、早朝などの特定時間、あるいは年末年始やお盆などの特定期間のみ時速200kmまで引き上げるといったアイデアも出されているが、抜本的な解決策とはとてもいえない。一方で貨物を新幹線に乗せて運ぶ貨物新幹線の導入、第2青函トンネルの建設といった抜本的な解決に向けた構想もあるが、資金的な制約から現実味に欠ける。

報道陣の前に姿を見せた新幹線は、およそ6~7秒かけて目の前を通過したが、新幹線ならではのスピード感には欠けていた。保守作業現場の取材を終え立ち去ろうとしたとき、今度は貨物列車がやってきた。大量の貨車を引っ張り、悠然と走り去った。青函トンネル内を走る列車は新幹線が1日26本、貨物列車が1日最大51本。現在の青函トンネルの主役は貨物列車だ。

2030年度には北海道新幹線・新函館北斗―札幌間が開業する。そのとき、新幹線の本数をどこまで増やせるかは、どれだけスピードアップできるかに懸かっている。はたして新幹線は青函トンネルの主役の座を奪い返すことができるだろうか。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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