欧州の事業証券化市場:08年上半期は、大型案件あるも新規発行は低調《スタンダード&プアーズの業界展望》

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下期も本格回復は難しいものの、引き続きインフラセクターが中心に

新規発行額は少数の大型案件に左右されることもあり、見通すことは難しいものの、2008年後半は引き続き低調であると予想され、その多くは、英国の規制インフラ業種からの発行になるだろう。

他の資金調達手段も影響を受けている。ローン市場での与信供与や、いわゆる「コベナント・ライト」(財務制限条項が緩く、貸し手にとってのリスクが高い)のローンも縮小したため、長期的には発行体がリファイナンスの手段のオプションとして、証券化による調達を考える可能性が高まるだろう。しかし、証券化による資金調達の動きは、スプレッドがより経済合理的な水準に落ち着いてくる時期、あるとしても、おそらく2009年まで出てこないだろう。スタンダード&プアーズは、事業証券化市場全体としてのプライシングは、2008年後半では、多くの新規発行を促すほどの水準には回復しないと見ている。

欧州の事業証券化市場では、引き続きインフラが最も活発なセクターである。BAA案件に加え、インフラセクターでは、英国の水道事業を行うThames Water Utilities Cayman Finance Ltd.も、2007年8月に格付けされた証券化の枠組みの中で新発債を発行した。さらに、スタンダード&プアーズは、アブダビに拠点を置くSun Finance Ltd.の4兆160億UAE ディルハム(11億ドル相当)の案件にも予備格付けを付与した。これは、不動産の開発リスクを伴う区画販売債権の案件であり、数多くの視点からの分析が必要となった。今後もインフラが事業証券化のなかでは最も活発であるとみられ、BAAプログラム下での追加発行に加え、鉄道、公益事業といった案件が控えている。

2008年7月までの格付け実績額(予備格付け含む)は、前年同期の26億ポンドに対し、103億ポンド相当となった。2007年通年の格付け実績額は72億ポンドであった。(表1)

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過去6カ月間の格上げと格下げは、SPUR(Standard & Poor’s Underlying Rating:第三者による保証前の格付け)だけをみれば、ほぼ同数である。今後の事業環境の見通しは厳しいが、スタンダード&プアーズは、証券化対象事業のパフォーマンスは、ベース・ケース予想の範囲で推移すると考えている。

日本では、2008年に入って、これまでのところ、既存の事業証券化案件の格付変更はない。欧州同様、クレジット市場の変動により新規案件の組成が難しくなる一方、インフラのように比較的安定した事業の証券化案件組成に対する興味は高まっている。中長期的には、投資家から長期資金を調達でき、スキームによっては調達コストの低減の可能性もある事業証券化が、より広い業種で有力な調達手段のオプションとして育つ可能性はあるだろう。

(注)「事業証券化」とは、事業運営者が特定の事業を営むことで生み出される将来のキャッシュフローの全部または一部を裏付けとした社債等を発行することである。1)裏付け資産から生じるキャッシュフローにより、社債などの債務の履行が円滑に行われるような法的手当てがなされる、2)事業運営者の代替者を用意するか、または事業を継続させるための何らかの手当てを行う、3)コベナンツ、トリガーなどを設定する−−ことによって投資家の事業に対する支配権の最大化を図り、また事業の安定的な継続性を確保し、社債等の債務が履行される安全性を高めることにより、事業運営者の格付けよりも高い格付けをめざす仕組みである。このような特徴から、事業証券化は、証券化案件とコーポレート・ファイナンスの中間に位置し、両者の特徴を併せ持っている。

スタンダード&プアーズ(ザ・マグロウヒル・カンパニーズの一部門)より発行 ©2008ザ・マグロウヒル・カンパニーズ
本誌の無断転写・複製を禁じます。ザ・マグロウヒル・カンパニーズ 会長兼社長−ハロルド・W・マグロウIII
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