「こんな働かされ方はおかしいとは思わなかったのですか。労働組合が身近にないなら、今は若者たちによるデモもよく行われています」
これに対し、彼は「(会社の)代表には言いました。でも、変わらなかった。(それ以上訴えて)窓際に追いやられ、(クビになって)就職活動しなければならなくなるのも怖かった」と答えた。一方で若者たちによるデモについて、こう指摘した。
「ヒダリの人たちのパワーが強まっていると感じます。あの人たち、あんなふうに顔を出してますが、ちゃんと仕事をしているんですかね。背後に怪しい団体がひもづいてるんじゃないですか」
「ヒダリ」や「背後」の意味を聞くと、「中核」「韓国系」「朝鮮総連」という言葉が出てきた。若者たちによるデモとは、反原発運動を源流の1つとした若者グループ「エキタス」のことなのだが、私が取材した限り、メンバーに日本共産党の青年組織「民青」の関係者がいる一方で、政党や政治とは関係ないいわゆる普通の学生や非正規労働者も大勢いる。また、中核派や、民族団体である在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)がこうした活
動に組織的にかかわっているという事実も確認できなかった。ユウスケさんの主張は、黒を見て白と言っているに等しいのだが、彼は「そういう印象を持たれていることは事実」と譲らない。
そもそも私に言わせれば、残業代も払わないような中小企業の経営者に向かって文句を言っても、聞き流されるのがオチだ。「和を乱す」ことへの不安は理解できるが、おかしいと思ったなら、その怒りをエネルギーにして労働組合に加入するなり、法律を駆使するなりして闘わなければ、状況を変えることは難しいだろう。
子ども時代の虐待経験とうまく折り合い、過酷な社会を生き残ったユウスケさんはたくましく、賢い人だと思った。ところが、「こんな働かされ方はおかしいと思わないのか」という話になった途端、私たちの会話はかみ合わなくなった。
「自分を律して頑張るしかない」
ユウスケさんが「私がストイックに働いている間に、彼らは徒党を組んでラップとかでわちゃわちゃやっている」と言うと、私が「ストイックなのではなく、いいように搾取されただけ。徒党ではなく、会社に対して力が弱い労働者たちが連携しているのだ」と反論。彼が「中小企業では、オーナーとの距離が近いから、お互いに配慮しなくてはいけない」と言うと、私が「あなたは長時間労働に耐えて会社に『配慮』したかもしれないが、オーナーが昇給やボーナスで『配慮』してくれたことがあったのか」と問う。
同じ言語で話しているのに、言葉が通じない。明るかった店外の景色はとっくに夜景に変わっていた。もう潮時だ。
ユウスケさんはいま、正社員の仕事を探している。「次もブラック企業だったらどうしようという心配はあります。でも、自分を律して頑張るしかありません」。
今まで十分に律してきたし、頑張ってきたじゃないか。これから必要なのは……。私は言葉を飲み込んだ。
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