「河川敷は冬より夏のほうが嫌だね。もっと年をとったら寒いのがこたえるかもしれないけど今は暑いほうが嫌だ。蚊も出るしね……でも改装したからテントの中には入ってこないんだ」
と言って、小屋に張られたブルーシートをめくる。シートの下は網戸になっていた。でもはじっこに穴が開いていた。
「いつのまにか猫が住みはじめたんだけど、すぐ穴開けちゃうんだよな。困ったよ」
困ったと言いつつ笑っている。猫用のエサも置いてある。文句を言いつつ、猫が来るのを楽しみにしているのだ。
小屋は川沿いに建っている
「あと夏は豪雨があったり台風も来るからなあ。河川敷にいるとなかなか大変だよ」
河川敷の小屋は、川沿いに建っているものが多い。彼の小屋も川沿いであり、しかも川の音が聞こえるほど近い。
「台風が来ると毎回消防署の人から『避難してください!』って言われるんだ。でも俺は避難しないんだ。俺は知ってるからね。ここがギリギリ水に浸からない場所だって」
おじさんは自信たっぷりにニヤッと笑った。
「向こうの小屋に住んでいるヤツは大慌てで逃げ出して、この人(ここへ案内してくれたおじさん)の所に行って旅館代貸してくださいって頼みに行ったんだよ(笑)」
そういうとゲラゲラと笑った。
しかし、水が来なかったのはたまたまだと思う。ここはかなり海が近く海抜が低い地帯だ。豪雨で大増水してしまったらきっと流されてしまう。おカネを貸してくれというのはお門違いだけど、そういう時は避難したほうがいいと思った。
現に河川敷を取材していると、台風で家が流された話をよく聞く。
「こないだの台風で隣に住んでるヤツが流されちゃってさ。今頃はサメのエサだろうなあ」
川崎競馬場の隣に小屋を建てていたおじさんは笑いながら語っていた。知り合いが流されたことは近所の野宿生活者しか知らない。彼らは「警察にも言わないから事件にもならない」と言っていた。
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