日本勢のシリコン不足が深刻化、信越化学が太陽電池に参入へ
日の丸ソーラー復権のカギを握る原材料シリコン--。このボトルネックが解消へ向かうかもしれない。半導体用材料で世界首位の信越化学工業が、太陽電池用への参入に重い腰を上げたからだ。
異例ずくめの用地取得 半導体が有力選択肢?
8月末、信越化学は福島県西郷村に43・7万平方メートルの用地を取得した。近隣の信越半導体白河工場の約8割に相当する広さだ。白河工場は、直径300ミリメートルの半導体用ウエハの生産では世界需要の4分の1に当たる月80万枚の推定生産能力を誇る。
これまでも金川千尋社長は「いい土地があったら押さえる」と公言してきた。しかし今回は、用地に関する取得先、取得金額、用途さえも明らかにしていない。協定を結んだ西郷村の関係者は「何の用途に使うのか皆目検討がつかない。こちらが教えてほしいくらいだ」と困惑する。まさに“異例ずくめ”の工場用地取得である。
判明した取得先は宝ホールディングスで、傘下の宝酒造が約35億円の減損処理をした土地だった。取得金額は100億円未満とみられる。2009年3月期に2000億~2500億円の設備投資を計画する同社にとっては、小さな額である。
ただ、その用途は日本の太陽電池業界にとって大きな意味を持つ。
用途の筆頭候補は、1984年から世界トップシェアを維持する半導体用ウエハと会社側は説明する。半導体の長期的な需要増に備え、供給責任を果たす使命があるからだ。ただ、その増産で44万平方メートルのすべてを必要とするわけではない。ほかに候補に挙がるのは、医薬品添加剤向けなどのセルロース誘導体。新潟県直江津工場で07年に爆発事故があり、生産能力が不足している。さらにハイブリッド自動車のモーター向けの希土類磁石や、半導体用フォトレジスト(感光性樹脂)も検討対象だ。
だが、やはり注目されるのは、太陽電池材料への本格参入だろう。幹部も「選択肢として検討中」であることを認める。かねてから信越半導体には、根強い引き合いがあった。「太陽電池用のウエハを欲しいという声は多い」(信越化学)ながらも、通称「イレブンナイン」と言われる超高純度多結晶シリコン鋳塊を利用した半導体用ウエハに特化してきたのが過去の経緯。不純物が10万倍多くても十分な太陽電池向けの注文は、世界最先端の半導体ウエハを製造する同社としては魅力に乏しかった。しかし大手シリコンメーカーの推定によると、太陽電池用シリコンの需要の伸びは中期的に年率30%とも予想される。参入する勝算は十分にある。
しかも半導体不況のあおりを受けて、300ミリメートル半導体用ウエハ生産量は、昨年8月の月産100万枚から93万枚(今年9月)まで減少。月産能力120万枚に対し、稼働率は77・5%まで低下していると推定される。浮き沈みの激しいシリコンサイクルに左右されない収益基盤を固めたいのも本音だろう。