大和ハウスと積水ハウス「異例人事」のワケ いずれも非「住宅事業たたきあげ」社長が就任

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ところで、これらのことから両社は今後、どのように変貌していくのだろうか。「コア事業により依存しない」と前述したが、もちろん戸建て住宅事業への注力を怠るわけではない。

多角化の推進が求められる

芳井氏は新社長就任の第一声は「戸建て住宅でナンバーワンを目指す」だったし、支店長時代は住宅事業のマネジメントも経験している。それは経営企画部にいた仲井氏も同様で、和田・阿部両氏の側近として住宅事業の重要さについて薫陶を受けてきたはずだからだ。

リノベーションや中古住宅流通などからなるストック住宅事業では、両社は膨大な既存顧客を擁する。そのことが事業拡大へ強みとなるし、新築住宅事業でも今後はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)への対応なども求められる。

住宅事業はコアであり続けるが、それぞれの強みを生かしながら、多角化の推進も求められるはずだ。両社の新社長は新たな、そしてシビアな経営の発想を求められ誕生したといえそうだ。

両社の海外事業にはグローバルな視点が求められ、国内事業に目を向けても、女性の活躍推進や従業員の残業削減など働き方改革にも積極的に取り組まねばならない状況である。深刻な建設系事業における人材難への対応も課題の1つだ。元々、人に対する依存度が大変高い業界であり、より一層の事業の効率化が避けられない。

大阪市に本社を置く名門ハウスメーカーで、長くライバルと目されてきた2つの企業が、奇しくもこの時期に新経営体制に移行したのには、少子高齢化による住宅需要の減退に対応することにとどまらず、このような住宅業界が抱える問題に迅速に対応するためだ。

両社は、ハウスメーカーを含む住宅関連事業において事業展開のベンチマークともなってきた企業でもある。新しい経営体制の始動によって両社が新たな事業領域を開拓し、体質改善も進めることで、住宅業界の近代化と活性化にも影響を与えることを期待したい。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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